金と黒 -8-

「陽太」
「はい……」
 裸のままベンチに寝そべった俺に、飛凰が言った。
「いずれは子を作り育てることになる。これは俺の義務だ」
「……分かっています」
「酷い話だと思うだろう。金で女に子供を産ませるなど」
「………」

 相手の女性がどういう人であるのかは、多分飛凰にしか知らされないだろう。飛凰本人だって産まれてすぐに母親から引き離され、神崎家の跡取りとして育てられてきた。当然母親の顔は知らない。この先もずっと知ることはない。

「でもそれって、代理出産ってことですよね。俺の代わりに産んでくれる女性がいるってことでしょう」
「まあそうだが……」
「それなら俺は、その女性に感謝してもしきれないです。飛凰様が男性しか愛せないのも、俺の体が男なのも、どう頑張っても変えられないことですから。どうしようもない部分は、他の人の力を借りても良いと俺は思います」
 世の中には男女の夫婦でも子供に恵まれない人もいて、欲しくても得られない人達のために頑張っている女性がいる。それはとても有難いことで、同時に最大限の尊敬に値することだ。

 もちろん飛凰の子供に俺の血が受け継がれないのは寂しいけれど、優先させるべきことが何なのかは理解している。
「だから飛凰様のタイミングでお決め下さい。飛凰様が決めたことなら、俺は全力で協力致しますから」
「陽太……」

 俺はベンチから降り、色鮮やかな薔薇たちを背景に立つ飛凰に抱き付いた。
「愛しています、飛凰様」
「陽太」
 俺を抱きしめ返す飛凰の腕に、徐々に力が籠って行く。このパターンはもしかして……
「う、……飛凰様、痛いです、苦し……」
「陽太ぁっ!」
「いだ――ッ!」
 せっかくの雰囲気が背骨の激痛によってぶち壊され、美しい薔薇園に俺の悲鳴が轟いた。

 今頃は黒羽も飛龍に抱かれているだろうか。
 涙に溢れた自分の過去が、大切な人との笑顔に満ちた未来へ繋がると信じて。