金と黒 -5-

「俺は元々、神崎家の経営している出張ホストで働いていたんだ」
「えっ」
「そこでの日々は楽な物ではなかったな。客の言うことは絶対だったし、吐き気がするようなことを強いられる時もあった。それでも普通に働くよりは多く貰える金のために我慢して、……その我慢が爆発しそうになった時、目の前に飛龍様が現れたんだ」

 泣いたり、自己嫌悪したり、もう死んでしまおうかと思った日もあって、一度は実際に剃刀の刃を手首にあてた。
 それでも金のために働くしかなかった。金が無ければ兄の腎臓移植ができないからだ。泣きながらも生き抜いてきた黒羽はその日、たまたま店舗の視察に来た飛龍と目が合った。

「ボロボロだった俺に、飛龍様は優しい言葉をかけてくれた。それどころか兄の手術代を出してくれて、俺を身請けしてくれた。それ以来俺は飛龍様のために生きると決めたんだ」
 黒羽にそんな過去があったと知らず、俺は黙り込んだ。
 そして俺よりもずっと過酷な環境にいた黒羽だけど、……彼の過去はほんの少し俺のそれと似ていた。

「優しい人なんですね、旦那様は」
「霙や桃矢の過去も同じようなものだ。霙はタチの悪い組員の情夫をしていて薬漬けにされる寸前だったし、桃矢は実の親から何年も虐待を受けた末に家出し神崎家の使用人に保護された」
 比べるものではないとはいえ、俺が一番ましじゃないか。彼らがそんな環境を生き抜いていたなんて、ちっとも想像していなかった。ただその美しさを認められて好色家の飛龍に手籠めにされたのだとばかり思っていた。

「調べてみて分かったことだが、代々神崎家の金魚となった男達は不幸な境遇にあった者が多いみたいだな。陽太も例外じゃないんじゃないか?」
「……俺は、ずっと貧乏で。親父の借金のためにメンズエステで働いてたところを、偶然来た景虎に声をかけてもらったんです」
「恐らくそれは偶然じゃない。陽太のことを調べた上で景虎がお前を選んだんだろう」
「………」
「そんな顔をする必要はないさ。別に飛龍様や飛凰様が、同情だけで俺達を傍に置いている訳じゃない。ただの同情なら金を与えて済む話だろう」

 込み上げてくる涙の理由が分からない。俺は唇を噛んで俯き、潤んだ目を何度も瞬かせて涙を堪えようとした。
「そんな過去を含めて俺は飛龍様に愛されていると実感している。霙や桃矢も同じだ」
「俺も」
「………」
「俺も飛凰様に愛されたい」
「……頑張れよ、陽太」
 優しく笑いながら、黒羽が顔を覆う俺の頭を撫でてくれた。