金と黒 -3-

「お久し振りでございます、飛凰様。陽太さん」
「お久し振りでございます、飛龍様。黒羽さん」
 予定通りその日の午後になってやって来た飛龍と黒羽。リムジンの後部席から出てきた二人に俺は深々と頭を下げ、黒羽と全く同じ言葉を口にした。ワイシャツにネクタイという慣れない格好のせいで落ち着かないが、飛凰が似合っていると言ってくれたから今日はこのまま頑張ることを決めた。

「親父。黒羽もよく来てくれた。ゆっくりしていってくれ」
「久し振りだね陽太くん。披露宴以来だ。前より美しくなられたかな?」
 飛龍が白い顎髭を撫でて俺を見た――頭からつま先まで。
「いえいえそんな、黒羽さんに比べたら僕なんてまだ……」
 この品定めをするような視線に飛凰は気付いているのだろうか。思わず飛凰の後ろに隠れたくなったが何とか堪え、俺はにっこりと笑って二人に言った。
「美味しいケーキをご用意しましたので、宜しければお庭でご一緒しませんか」
 そうして飛龍、飛凰。黒羽に、そして俺。上座から順に座って正方形のテーブルを囲み、雲雀が運んでくれたケーキとお茶で穏やかな春の午後を楽しんだ。
 こんなに美味しいチョコケーキは初めてだ。スポンジとクリームの間にクラッシュされたクルミが入っていて、歯触りも心地好い。

「美味いぞ。ケーキの種類は陽太が選んでくれたそうだな」
「いいえ飛凰様。旦那様と黒羽さんの分は雲雀が助言をしてくれました。なあ、雲雀?」
 神崎家の当主とその第一金魚を前に緊張し縮こまっている雲雀が、俯いたまま「いえ、そんな」と赤面している。
「雲雀くん」
 飛龍が雲雀を隣に呼び、そのごつごつした手で彼の頭を撫でた。
「息子の金魚のお世話をよく頑張ってくれているね。今日は土産がなくて済まないが、今度また君に似合う物を買ってあげよう」
「だ、旦那様、そんなそんなっ……」
「………」
 まさかとは思うが、十五歳の雲雀にまで手を付けようとしているつもりじゃないだろうな。

 さて、と飛龍が雲雀から俺達の方へと顔を向けた。
「お前達の方はどうなんだ。上手くいっているのか」
「心配ない。陽太はよくやってくれている」
「このまま陽太くんが神崎家での生活を気に入ってくれたなら、お前達も早い内に子を作らないとな」
「ほえっ? こ、子供……?」
 思わずフォークを咥えたまま素っ頓狂な声をあげてしまった。

「勿論陽太くんは性別上、子を産める体ではないからな。親にはなってもらうが、生まれるまでは何も心配しなくていいんだよ」
「で、でもそしたら……あっ」
 そういえば前に景虎が言っていたっけ。神崎家での子孫の増やし方。
「保存してある飛凰の精子を使う。飛凰も私もこの方法で産まれた。お前達さえ良ければすぐにでも母親を探す準備を整えるぞ」
「………」
 大事なのは神崎家を継ぐ子の存在だから、それは仕方のないことかもしれないけれど。
 ――俺と飛凰の血が混ざらない子供。
 そう思うと、何だか少し寂しい。

「親父、その話はまた次の時にしよう。陽太はまだここに来て日が浅い。いきなり子供と言われても戸惑ってしまうだけだ」
「そうですよ旦那様。しばらくはお二人でゆっくりと過ごして頂いて、信頼関係を築いて貰った方が」
 黒羽も味方してくれて、ようやく飛龍が「そうか」と納得してくれた。