陽太と薄幸の美青年

 その日──景虎に連れられて屋敷にやってきたのは、俺とさほど変わらない年頃の美しいであろう・・・・青年だった。

「彼の名前は琥珀といいます。ウチが管理している店のボーイをしておりましたが、昨夜、狭霧町の路地裏で複数人の男にレイプされそうになっていたところを保護しました。身寄りもなく一人にさせる訳にも行きませんので、一度俺の部屋へ運んで手当てしました」
 飛凰の部屋で三時のおやつを食べていた俺は、景虎の隣に立った青年をじっと見つめた。
 美しいであろう・・・・と表現したのは、襲われた際に殴られたのか彼の顔があちこち腫れあがっていたからだ。それを差し引いても美しいと分かるから、元は相当な美青年なのだろう。中でも、名前の通り琥珀色の綺麗な瞳が特徴的だった。
 しかし……小柄な上に景虎の大きなシャツを着ているせいか、必要以上に華奢に見える。綺麗なはずの目には覇気がなく、だいぶ疲れているようだ。

「稼ぎは殆どが借金の返済にあてられていて、今は住む家もないそうです。店の寮を空けるよう言いましたが、準備ができるまで少しの間、屋敷に置いてあげても良いでしょうか?」
 今にも倒れてしまいそうな青年を見て、飛凰が断るはずもなく──
「もちろん構わない。彼の怪我が治るまで面倒見てやるといい。その顔では働きに出られないだろう」
 景虎が言った「ウチの店」とは、売り専、つまり風俗店のことだ。確かに顔のあちこちに痣のあるボーイに接客させる訳にはいかない。

「ありがとうございます。俺が責任を持って琥珀の世話をします」
「それは良いが、陽太の世話も忘れてもらっては困るぞ」
「勿論でございます」
 いつになく真剣な顔の景虎に、俺は小さく微笑んだ。普段はちゃらんぽらんな男だけど、こういう時の景虎は頼りになる。襲われていた青年を助けるなんてカッコいいじゃないか。
「ご迷惑はおかけしません。どうぞよろしくお願い致します……」
 頭を下げた琥珀の声はか細く、今にも消え入りそうだった。その弱々しい光を宿した琥珀色の瞳は、飛凰をじっと見つめている。
 身寄りがなく、稼ぎを借金の返済に──琥珀の境遇は、かつての俺と全く同じだった。

「大丈夫ですかねあの人。凄くふらふらで……ご飯とかちゃんと食べれてるのかな」
 二人が部屋を出て行った後で言うと、飛凰が俺の頭を撫でながら「気になるか?」と訊ねてきた。
「複数人に襲われていたっていうのも、酷い話ですし……」
「景虎がついている。今は安全だ」
 何となく他人事に思えなくて心配だが、確かに飛凰の言う通り景虎に任せていれば大丈夫だろう。ここにいれば少なくとも生活には困らない。食事も寝床も最高の物が用意されているし、今の彼にとってはこれ以上なく安全な環境だ。

「……だけど怪我よりも、心のケアの方が必要そうですね」
 あの虚ろな目はきっと、この世の絶望を見てきた目だ。自分一人では背負いきれない傷を抱えている証拠だ。……子供の頃の俺のように。
「陽太と同じ年頃なんじゃないか? 話し相手になってやったらどうだ」
「同じ年頃だからこそ、こういう場合は下手に刺激しない方がいいんですよ。俺が彼の立場だったら『放っといてくれ』って思いますもん」
「そ、そういうものなのか……?」
「向こうが話したいと思ってくれるならいいんですけど……。話し相手なら景虎の方が適任かも」