竜介、大忙し

竜介(りゅうすけ)、23歳 身長:185 体重:そこそこ 誕生日:1月2日 血液型:O型 好きなもの:可愛いもの、犬と猫 苦手なもの:特になし 「最高の夜を約束しよう。……そんなに怖がらないでくれ;」 |
翌々日、俺の初めての「ブレイズ」撮影が行なわれた。
場所はビルから車で約ニ十分のところにある撮影用スタジオの二階だ。今回は始めに立ったままキスをして、ソファで前戯をして、次にベッドへ移動して本番となる。相手役は一人。タチ役としてはベテランのおじさん──といったら失礼だけどとにかく大先輩で、彼に任せれば大丈夫だと山野さんが言っていた。
「よろしくお願いします、亜利馬です」
「初めまして、よろしく。高畑良晴です」
スーツ姿の良晴さんは背も高くガタイもいいけどとても人の好さそうな人で、俺が緊張していると知っているからか過去の撮影での面白い話などをたくさん聞かせてくれた。
撮影自体は問題ない。セックスもまだ数回しかしてないけれど、良晴さんに任せてしまえばいいならラクだ。
それよりも俺は、「撮影スタジオ」という独特な空気に気圧されっぱなしだった。マンションの撮影部屋とは比べ物にならないほど広くて、フロアの半分からコッチ側は完全にセットと線引きされ、撮影機材やパソコンやモニターが騒然と並んでいた。バラエティ番組でよく見ていたやつだ。そこに自分がいるなんて、信じられない思いだった。
セットの方も右側がソファやキッチンなどのリビングを模した造りになっていて、左側はベッドがあるだけの寝室となっている。二つの空間の間には壁やドアはなく、ソファで撮った後はスムーズにベッドへ移動できるというわけだ。
「亜利馬」
山野さんに呼ばれてそちらへ行くと、髪についていた埃を指で払われた。
「今回は『ブレイズ』の第一弾だ。お前自身のデビューもまだなのにバタバタしてすまないが、今だけ頑張ってくれ」
「はい、頑張ります!」
俺の課題はNGを出さないこと。滞りなく撮影を終えること。特に今回はシリアスなイメージでと言われているから、絶対に鼻血も笑い声も噴き出させたら駄目だ。
シャワーを浴びてヘアメイクを済ませた俺は、私服に着替えて呼ばれるのをじっと待った。慌ただしく皆が動き回る中で立ち尽くしながら、憧れていた世界にいるんだと実感する。──実際は、ちょっとそれとは違うけれど。
「亜利馬、スタンバイだ」
「はいっ!」
失礼します、と声に出してセットの部屋に上がり、白い壁に背をつける。
「頑張ろう、亜利馬くん」
正面に立った良晴さんが言ってくれて、俺は力強く頷いた。
*
「……で、どうだったんだよ。そのツラを見る限りだとまたNG出したか?」
「いえ、その……撮影自体はちゃんと終わったんですけど、もう、疲れすぎて……」
その夜。隣のスタジオで撮影していた潤歩と帰りが一緒になった俺は、適当なところで車を停めてもらって一緒に夕飯を食べてから帰宅することにした。
「だらしねえな、たった二回ヤッたくらいだろうが」
「一日で二回なんて初めてだったんです!」
「もう少し体力を付けろ。今後は一日二回なんてモンじゃ済まなくなるぞ」
「……ええ……」
「それに言っとくけどな、タチ役はもっと疲れるんだぞ。運動量がウケとは違う。前戯から本番まで動きっぱなしだからな。休憩できんのはフェラされてる時だけだ」
午後九時のファミレスでそんな話もどうかと思ったが、とにかく疲れていて潤歩の発言を止める気力もない。俺は運ばれてきた食後のチョコレートパフェを前に、スプーンを握って大きく溜息をついた。
「タチの人達がガタイが良いのって、そういう意味も含まれてるんですね」
「画面映えするって理由もあるけどな」
「見られるための体かぁ……」
生クリームとバニラアイスをすくって、口に入れる。
「ウケでもヒョロヒョロよりはしっかりした体の方が良いに決まってる。そんなモンばっか食ってると腹も出るし太るからな」
「だって、撮影前は冷たいの食べたら駄目だって言うんですもん……」
自分の使っていたカレー用スプーンで、潤歩が反対側から俺のパフェを食べ始める。
「美味いな」
「美味いですよね」
「でも、丸々一個は食えねえ。獅琉と違って甘いモン好きじゃねえし」
そういえば、と俺はパフェから潤歩に視線を向けた。
「竜介さんも見た目に寄らず甘党なんですよね。ホットケーキが大好きだって言ってましたけど、全然太ってないし」
「竜介は、食うより運動する量の方が断然多いからな」