陽太の奉仕と媚薬騒動 -9-

「す、すみませんでしたっ。そんなつもりはなかったんです、どうかお許しを……!」
 景虎の管理している男達に羽交い締めにされた中野が、無様な顔を晒して叫ぶ。俺は椅子に座ったまま口元だけを弛め、笑った。
「別に怒っちゃいませんよ。俺は貴方が持ってきてくれた、そのゼリーの使用感を確かめたいだけですから」
「そ、それはつまり……?」
「自社の商品に自信を持つのは良いことですよ。貴方の言葉が本当なら、俺から飛凰様にそのゼリーの購入をお勧めしておきます。なので頑張って貴方自身で、彼らにプレゼンしてみて下さいな」
「ああぁ……そんな……」
 男達によってずるずると引きずられて行く中野。彼がこの後どうなるかは景虎の指示次第だ。

「雲雀が受けた痛みと屈辱をそのままお返ししておきますよ」
 庭の外に停めてあった車に中野が押し込まれるのを涼しい顔で眺めながら、景虎が言った。
「もっとも、あいつには逆に『ご褒美』になってしまうかもしれませんけどね」
「……普段から、ああいう輩が神崎家に近付いてくるモンなのか?」
「皆さん少しでも儲けようと必死ですよ。陽太様が正式な金魚になったことも業界で知られていますから、今後も飛凰様がご不在の時に取り入ろうとしてくる者が現れるでしょうね」
 そういう取引相手の裏表も、今後は俺が見極められるようにならなければいけない。

 思ったその時、俺を見つめる景虎の目がふっと優しくなった。
「とは言っても今回のようなことは稀で、まともな企業が大半ですから安心して下さい。陽太様に会わせるのは比較的その中でも神崎家に影響しないものというか、端的に言えば『どうでもいい』企業ばかりですから」
「そりゃそうだ」
「陽太様はのほほんと庭でお休みしたり、飛凰様を癒すことだけを考えてくれれば良いんです。そういう意味では結果はどうあれ、今回あのオイルを購入された理由だけは評価しますよ」

 金魚として生きること。
 黒羽のような奥ゆかしさは俺には身に付けられないけれど、それならばもっと別の形で、俺は俺らしく飛凰のためになることをしたい。
「ところで、雲雀の体にはあのオイルは強過ぎたみたいですが、……飛凰様にはどうでした?」
「お、教えない。……ていうかお前こそあの後どうしたんだよ。雲雀を治してやったのか?」
「雲雀に口止めされてるので、それは秘密です」

 誰もいなくなった楽園の庭に、聞こえるのは鳥の囀りだけ。
「さて、お茶でも淹れましょうか陽太様」
「ジュースの方がいいな。スカッとしたやつ飲みたい」
 いずれこの庭が俺の職場になったらいい。
 漠然とした思いを胸に、俺は屋敷に戻る景虎の後を追った。