大雅、ちょっとだけ新人に心を開く -8-

 *

 よく分からないけど「鑑賞代だ」と言って、その日は竜介が俺達にイタリアンのディナーをご馳走してくれた。
「竜介さん……ま、またホットケーキ食べるんですか?」
「これはパンケーキだ。デザートはいつ食べても美味いからな。この店は獅琉に教えてもらったんだぞ。俺の数少ない甘党仲間なんだ、あいつは」
 当然俺が作ったものよりも立派で美味しそうなパンケーキを食べながら、竜介が笑う。
「大雅に付き合ってくれてありがとうな、亜利馬」
「い、いえそんな……」
「こいつがデビューしてから俺が兄貴分として面倒見てやってるんだが、なかなか同年代の友達ってのができなくてな」
 大雅は黙ってパスタを頬張っている。
「人見知りするが、根はいい奴だ。こいつはこいつで『ブレイズ』に加入することになった以上、亜利馬とも仲良くなりたいと思ってるのさ」
「もちろん。俺達もう友達じゃん、大雅」
 裸の付き合いもしたわけだし、と心の中でそっと付け加える。大雅は目を伏せて俺から視線を逸らしながらも、頬を赤くさせていた。

「……竜介。ちょっと耳塞いでて」
「うん?」
 そんな大雅の命令を受け、竜介が律儀に耳を両手で塞ぐ。それを確認した大雅が、椅子から上半身を伸ばして隣の俺に耳打ちした。
「……友達だから、亜利馬も竜介とセックスしてもいいよ」
「え?」
「前、竜介に言われた。『友達ができたら、大事なものを分け合え』って」
「そ、それってそういう意味じゃないでしょ。俺は竜介さんとそんなことするつもりないって……あ、撮影での話?」
「撮影でも、普通の日でも」
 どこか考え方がズレている大雅だが、彼にとって竜介が「大事なもの」であるのは充分に理解した。
「竜介さんのこと好きなんだね」
「亜利馬のことも好きだよ」
「ほんと? 嬉し──」
「だから亜利馬のことも、竜介と分け合うから」
「え?」
 大雅が笑った。
 それはもう、俗に言う小悪魔のようなイタズラスマイルだった。

『お兄ちゃんとふたりの秘密』『僕とお兄ちゃんの熱い夏』『ブラザーズ1・2・3』……ボーイズレーベルから出ている大雅と竜介の作品は兄弟ものが多く、裏ジャケットの画像にはどれも普段の彼からは想像できないほどのとろけ顔をした大雅が載っている。
 これだけ刷り込まれたら確かに懐いちゃうだろうなぁ、と俺は苦笑した。
「別に、撮影で竜介が他のモデルと絡んでも嫉妬なんかしないよ。そんな性格だったらこの仕事してないし」
 大雅はそう言っていた。そして、
「でも、プライベートでは俺のだから」
 はっきりそう言う大雅の横顔は凛々しかった。ただ竜介本人は全く気付いていない様子で、大雅はいつも竜介の行動にやきもきしているようだ。
「またホットケーキ作る時は竜介さんも呼びなよ」
「……3Pする気?」
「ち、違うって! 何でそんなふうに考えるんだよ……」

そんなわけで……

 ちょっとだけ変わった友達ができたその日は、俺がホットケーキの作り方を習得した日でもあり、また「こういう恋の仕方もあるんだな」と妙に納得させられた日でもあったのだった。