陽太のお迎え日 -7-

 そうして一夜明けた、八日目。

「本日より陽太を正式に俺の金魚とする。お前達もそれを忘れるな」
 屋敷の人達を庭に集めて、飛凰がそう発表した。後ろの方には飛凰の父親や黒羽達もいる。

 今日の庭はちょっとした内輪のパーティー会場みたいになっていて、料理の並んだ円卓が幾つも並び、生演奏をする楽団まで呼ばれていた。普段屋敷で働いている使用人の奥さんや子供達も来ていて、誰もが楽しそうに笑っていた。
 何だか結婚披露宴みたいで気恥ずかしかったが、景虎に言わせれば「これでも質素な方」らしい。飛凰の父親の金魚披露パーティーでは超有名ホールを貸し切り、各界の著名人や政治家まで呼んでいたのだとか。

「飛凰様、陽太様。おめでとうございます」
「景虎。今回は世話になった。陽太を選んだお前の目に狂いはない。お前が運んでくれた縁は生涯大切にさせてもらうぞ」
 景虎が頭を下げ、飛凰に気付かれないよう俺にウィンクする。
 しかしながら──こんな名家のお坊ちゃんが、俺みたいな男を見初めるなんて。ろくに俺の過去を聞こうともせず、ただ「顔が好みだから」という理由だけで。
 つくづく金持ちの考えることはよく分からない。でもまぁ、家柄も元の仕事も関係なく玉の輿に乗せてくれるという、俺みたいな庶民にもチャンスを与えてくれるシステムは有難いけれど。

「飛凰様。さっき可愛い犬を見たんです、遊んで来ていいですか?」
「ああ、行っておいで」
 お披露目用の着物を着せられている俺は、窮屈な裾を全捲りして歩きたいのを必死に堪えながら池の方へと近付いて行った。初めて見る顔の使用人がセントバーナードを連れて来て、池の周りを散歩していたのだ。

「ああ、でっかいもふもふ……触ってもいいですか」
「ひ、陽太様! お着物にコイツの涎が付いてしまいますよ!」
「どうせ洗うんだから大丈夫ですって。おいで!」
 ウォンと吠えた超大型犬が、勢いよく俺に飛び掛かる。
「わっ」
「陽太様! ──ストップ、チャンプ、ストップ!」
「あははは!」
 芝生に転がってじゃれ合う俺と、必死に愛犬を止めようとしている彼。チャンプと呼ばれたセントバーナードはべろべろと俺のほっぺたを舐めている。

「申し訳ありません陽太様……ああ、せっかくのお着物と御髪が……」
「いいってば。犬は大好きなんだ。子供の頃からずっと飼いたかったけど、家では飼えなかったから……チャンプはいい犬だね。賢さも大事だけど、人懐こい性格が一番愛される」
「良かったらいつでも遊んでやって下さい。コイツは屋敷の中で飼ってる子なので、いつでも会えますよ」
「本当? 一週間いるけど全然気付かなかった」
「黒羽様は犬が苦手なので……。本家に戻られるまで、なるべく黒羽様に近付かせないよう部屋に閉じ込めていたのです。散歩も夜中にこっそりと……」
 それじゃあまだまだ遊び足りないだろう。黒羽達がいなくなったら俺が遊び相手だ。
「お兄さん、名前は?」
蘭海らんかいと申します。洗濯担当ですので、チャンプが汚したお着物は私が責任もって綺麗に致しますよ」
 余計な仕事をさせてしまうかなと思った、その時。

「陽太くん」
「あ……」
「……だ、旦那様!」
 いつの間に来たのか、振り返った俺の背後には飛凰の父親──神崎家現当主の飛龍が立っていた。