陽太のお迎え日

 俺が神崎家に来てから丁度一週間、七日目の朝が来た。
「陽太。さっさと起きろ」
「ふあ……?」
 まだベッドで寝ていた所を黒羽に叩き起こされ、俺はぼさぼさの頭をかきながらぼんやりと顔を上げた。まだ午前六時だ。朝食には早過ぎる。

「その顔を洗って来い。それから、用意したそれに着替えるんだ」
 大きな箱がベッドの上に投げられる。開けてみると中には黄色地に和金の柄が入った豪華な着物が入っていた。
「着物の着方なんて分からないですけど……」
「使用人が手伝う。いいからさっさと顔を洗え」
 全く、いばりんぼうめ。
 のろくさとベッドから抜けて洗面所で顔を洗うと、黒羽が寄越した使用人が箱から着物を出して言った。

「お召物を全て脱いで下さい」
「パンツも?」
「下着もです」
 全裸になって茫然と立ち尽くす俺の周りで、使用人達がせっせと着付けしてくれる。褌でも付けられるのだろうかと思ったが、意外にもそういう路線ではないみたいだ。
「………」
 かといって、女性らしい凛としたものでもない。これはどちらかというと……

「神崎家金魚の正装でございます。立派なゴールデンコメットでございますよ、陽太様」
 顎髭を蓄えたお爺さんが俺を見て満足気に笑った。
「これって、どちらかというと……遊女っぽいな」
 がっつりと肩が見えているし、ひらひらが沢山ついているし……。帯に取り付けられた半透明の赤いリボンが背中でゆらゆらと揺れ、金魚の尻尾のようだ。帯飾りの鈴が歩く度にちりちりと音を立て、うるさいったらありゃしない。

「着替えたか。次はその頭だ」
「黒羽さんっ。何なんですか、一体?」
 屋敷内の美容師の元へ連れて行かれ、三人がかりで髪を弄られる。「ぼさぼさド金髪」がドライヤーとオイルだのスプレーだので、一時間後には「ふわふわレモン」に仕上げられた。
 それから着物に合う髪飾りをワンサカ盛られ、かんざしを付けられ、より一層遊女っぽさに磨きがかかる。
「お前は柑橘系の香りが合いそうだな。この香水を振れ」
「わっぷ!」
 黒羽が俺の顔面に思い切り香水を噴きかけた。

 一体何なんだ。早くに起こされて急にこんな仕度をさせられて、まるで嫁入りの朝みたいな……
 ん? 嫁入り?

「陽太。今日、お前は飛凰様の正式な金魚となる。粗相のないように振る舞えよ」
「えっ、今日、急に?」
「屋敷に入って七日間、飛凰様はお前を吟味していた。今日はその答えを頂く日なんだ」
「じゃあ飛凰様が気に入らなかったら、俺はここを追い出されるってことですか」
「その通りだ。だが俺には分かっている。飛凰様は今日、お前を正式に迎え入れる。──お前この七日間、食事のマナーをちっとも直そうとしなかっただろう。そういう破天荒な変わり者に惹かれるたちなんだ、飛凰様は」
 ……褒められてるのかどうなのか、分からないけれど。