神崎家の金魚たち -4-

 そうして十二時少し前、俺はしぶしぶ庭へ出て噴水前へと向かった。
 天使の石膏像の横には、今朝までは無かった白木のテーブルが用意されている。正方形になっていて、そこに四人が集まる訳だ。気が重い。
 しかも既に他の三人は席についていて、俺が一番最後ということらしい。十二時より前に来たつもりだが──俺には彼らが「新人」を待ち構えていたようにしか見えなかった。

「陽太くんだね、どうぞ座って」
 そう声をかけてきたのは黒髪の綺麗な男前だった。その男の正面の席が空いていて、そこに俺が座るということは……この男が金魚の中で一番偉いということか。
「神崎飛龍ひりゅう様の第一金魚、黒羽くろはです。よろしく」
 案の定の「第一金魚」。まるで一夫多妻制の「第一夫人」みたいな言い方だ。
「よろしくお願いします。失礼します」
 椅子に腰かけ、三人に向かって会釈をする。俺の正面に黒髪の黒羽、俺から見て右側に淡い青色の髪の男。そして左側には茶髪にピンクのメッシュが入ったチャラい青年。

「初めまして。昨日からこちらでお世話になっています、春野陽太です。前は東京に住んでいて、……」
「ストップ」
「え?」
 急に黒羽が手を伸ばし、俺の挨拶を制止した。
「ここでは苗字は必要ないんだ。それから、ここに来る前に何をしていたかも明かす必要はない。君はただの陽太。それだけでいいよ」
「はぁ……じゃあ、そうですね。ただの陽太です」
 よく分からないけど、過去の貧乏生活を話さなくて良いならそれに越したことはない。水道を止められて近所の公園までわざわざ水汲みに行った経験なんて聞かされても、反応に困らせるだけだろう。

 黒羽が爽やかな笑みを浮かべて言った。
「それでは全員揃ったので、こちらも改めて自己紹介をしよう。俺は黒羽。神崎家当主の飛龍様からはブラックドラゴンの名前をもらっている。ここでは金魚のまとめ役をしてるんだ。何か困ったことがあったら俺に相談してくれ」
「はい」
 黒羽が、今度は青色の髪の男に顔を向ける。その合図を受けた男が、ちらりと俺の方へ視線を向けてきた。──めちゃくちゃ美人だ。今にも透き通って消えてしまいそうな、儚げな美男子だ。
みぞれです。……青蘭鋳あおらんちゅう
「え? 青何ですか?」
「青蘭鋳」
 らんちゅうってあの、でこぼこした丸っこい金魚のことか。

 それきり黙り込んだ霙に代わり、黒羽が口を開いた。
「霙は飛龍様の第二金魚だ。口数は少ない方だが悪い奴じゃない、仲良くしてやってくれ」
「はい。よろしくお願いします、霙さん」
 そして最後に、ピンクメッシュの青年が大きな目を爛々と輝かせて俺を見た。
「俺は桃矢とうや。飛龍様の第三金魚、桜錦さくらにしきだよ。陽太とは同い年だって聞いたけど、仲良くしようね。よろしく!」
「よろしくお願いします」
 随分と元気いっぱいな青年だ。チャラそうな割に子供っぽいし、正直言って少し苦手なタイプかもしれない。

「陽太は、何の金魚だって言われたの?」
 その桃矢に質問されて、俺は「あ」と昨夜のことを思い出した。
「お、俺は確か……ゴールデンコメット、だったかな?」
「可愛らしいね。陽太にぴったりだ」
 笑ったのは黒羽だった。皆何かしらの金魚の名前をあてがわれているということか。金魚と言えば赤いイメージがあるけれど、ここにいる青年達は黒に青に桜、そして黄色と、何だか珍しい色をしている。そんじょそこらの金魚とは違うんだ、ということだろうか。はっきり言ってコメットなんて金魚は見たこともない。