神崎家の金魚たち -3-

 神崎家の別荘の庭──楽園。この広い芝生の庭に点在するドールハウスのような可愛らしい家は、今は全部で四つ。神崎家の「金魚」専用の「水槽」なのだそうだ。

 何故金魚なのかといえば、神崎家の先祖が金魚売りをしていたかららしい。貧しい金魚売りだったがある日大名家の池に金魚を卸すことになり、そこから家が繁栄して行ったのだとか。
 今でも性風俗産業とは別の名義で金魚の繁殖や売買をやっていて、とにかく神崎家にとって金魚はとても縁起が良いものなのだそうだ。

 水槽は一階建てで、家というよりは部屋に近い。広さは約十畳。コーディネートは好きにしていいと言われたが、面倒だし俺にはそんなセンスも金もないから手を付けるつもりはない。
 俺はゴールデンコメット。この金色の髪は別に好きでこうしている訳ではなく、メンズエステをやっていた時に少しでもプロフィール画像で目立とうと思って染めただけだ。
 使用人の中には美容師もいると言っていたっけ。近いうちに綺麗にしてもらおう。……飛凰のためではなく、俺のために。

 しかし大昔から続く名家のくせに、男色家が多いとは。跡継ぎはどうするのかと景虎に聞いたところ、何と何と、そのために吟味に吟味を重ねた女性に当主の精子を体外受精させるのだそうだ。大金を積まれる女性の方も納得して産んだ子を預けるらしいが……そこに何か一つのドラマが生まれそうな気もする。飛凰の母親は誰なんだろう。あれだけ綺麗ならよっぽどの美女から産まれたんだろうけれど。

「……全く金持ちの考えることは分からないな」
「陽太様!」
 一瞬誰のことか分からず反応できなかったけれど、すぐに自分が呼ばれたと気付いて背後を振り返る。屋敷のリビングに駆け込んできたのは、十四、五歳くらいの少年だった。
「初めまして。僕は景虎さんの助手見習いをしております、雲雀ひばりと申します。昨日はご挨拶が出来ずに申し訳ありません。風邪気味で寝込んでいたもので……」
 雲雀と名乗った学ラン姿の少年は、俺の前でわたわたと慌てている。景虎の助手ということは、俺のような「金魚」に直接関わってくる子ということだ。

「よろしく、雲雀。風邪は大丈夫なのか?」
「はい、すっかり良くなりました! それで陽太様、何か御用がありましたら僕にお申し付け下さいね。まだまだ見習いですけど、少しでも皆様のお役に立ちたいと思っていますので」
「まだ中学生だろ。そんなことする必要ないって」
「いえ、もう中学校は卒業しました! 卒業と同時に景虎さんに声をかけて頂いて、こちらで働かせて頂いてるんです。忙しい景虎さんの代わりをするのが僕の仕事ですので、陽太様もご遠慮なく色々仰って下さいませ!」
 朗らかに笑う雲雀にほっこりしていると、突然とんでもないことを言われた。

「早速ですが陽太様に伝言です。えっと、今日のランチは本家からいらっしゃった旦那様の三人の金魚の皆様とご一緒にとのことです。十二時丁度に、噴水前のベンチにお願いします」
「え?」
「皆様、新しく来られた陽太様に興味津々のご様子でしたよ。金魚同士の親睦を深めるためのランチ会だそうです」
 ……ランチ会。男のくせにそんな婦女子のようなことをやっているのか、ここの愛人達は。
「分かった、行くよ。ありがとう」
 にこりと笑って頭を下げ、雲雀がリビングを出て行った。

 溜息しか出ない。ランチ会なんてこじゃれたモノに参加するのも憂鬱だが、神崎家当主の愛人達と顔を合わせて飯を食うなんて、気まずさしかない。俺がまだ金魚「候補」のうちに粗探しをしておくということだろうか。飛凰に相応しい男かどうかを見極めるために。
 しかし行かない訳にもいかないだろう。現時点で顔も知らない連中だけど、彼らはここでは俺の先輩なのだ。自分だけ約束をすっぽかしたら、それこそどんな目に遭うか分からない。