神崎家の飛凰様 -4-

「良かったら神崎家自慢の庭を見てみないか? ベンチがあちこちにあるから、外で話そう」
 することもないので景虎について行き、外に出る。広大な芝生の庭、真っ青な空。鳥の囀りや池で鯉が跳ねる音が聞こえてきて、緑に花に噴水に、まるで天国みたいだ。
「いい庭だろう。この別荘を建てるにあたって、飛凰様が一番こだわったのがこの庭なんだ。俺達は『楽園』って呼んでいる」
「え、ここって別荘なのか?」
「ああ。本家は別で都内にある」
「はあ……流石は金持ち」
 きっと飛凰は子供の頃から手に入らない物なんてなかったのだろう。
 俺と違って、何不自由なく育ってきたんだ。

「………」
「飛凰様のこと、どう思った?」
「え、……?」
 ぼんやりしていたらふいに聞かれ、俺は隣に座った景虎に顔を向けた。座っているのは噴水前のベンチだ。淡々と噴き出る水を見ていたら久し振りに子供の頃のことを思い出していた。あの頃は水道が止まったら、公園まで水汲みに行っていたっけ。
「綺麗な人だろ。好みの美男子じゃなかったか?」
「別に、綺麗だし男前だと思ったよ。あの人ならフェラのサービスもしてたかもな」
「意地悪なこと言うね、『ミナト』」
 俺はわざと退屈そうに脚をぶらつかせた。本当にここで働けるなら有難い話だが、景虎に感謝するのは何となく癪だったからだ。

「金で男を侍らせる趣味は理解できないけど」
「飛凰様はちょっとだけ男遊びが盛んでな。今は大目に見てやってくれ」
「別に、あの人が何しようと俺には関係ないじゃん」
 そっぽを向いて言うと、景虎がくすくすと笑って口元に手をあてた。
「陽太は美人で飛凰様の好みだと思うぜ。迫られたらどうする?」
「金払いによっては考えてもいいかな」
「あの人にまともな金銭感覚なんてないから、もしかしたら陽太を抱くために数百万とか出すかもよ」
 それなら喜んで抱かれてやってもいい。飛凰の美しさとその額ならノンケでも断る男なんかいないだろう。

「じゃあ例えばこの暮らしが丸ごと陽太の物になるとしたら、飛凰様と結婚してもいいって思うか?」
「するする、全然するよ」
 適当な返事をする俺の横顔を、何故か景虎がじっと見つめている。その値踏みするような目付きが気に入らず、俺は舌打ちしてから景虎に言った。
「何か企んでるなら早めに白状しろよ。言っとくけど俺は金持ち相手でも黙ってやられるような男じゃないからな」
 景虎の目が、笑う形にスッと細くなる。
「その威勢の良さを頼りにしてるよ。安心しろ、お前にとってもこれは良い話だ」
「………」

 これまでの十九年間、ずっと最底辺の不運の中にいた。
 俺はきっとこれから──今日から新しく生まれ変わるんだ。