愛と感謝の光 -4-

 勇星が両手を顔の高さに上げ、俺達二十六人、一人一人の顔を見て笑う。
「………」
 水を打ったような静寂が礼拝室を包む。隣に立つ美穂さんと牧師の心音すら聞こえてくるようだった。

 握った両手に感じる温かさ。俺達は皆、勇星の合図を待っていた。

 およそ一秒の半分にも満たない、その瞬間──両手に力を込めた勇星が、同時に息を吸い込んだ。
 振り下ろされた勇星の指先が俺達の口から、海斗のピアノから、天への旋律を奏でさせる。

 それは歌い出し、始まりといったものでは表現できない──まさに俺達全員の感情が一つになり、爆発したかのような第一小節だった。

 見よ、我らの全能なる主を、
 ──高き天より注ぐ光の御業を。
「高き天より注ぐ、光の御業を──!」

 二節目を繰り返した後で、俺はほんの数舜だけ目を閉じる。そこにはもう、俺達の姿はなかった。

 海斗の十本の指が、鍵盤の上を滑るように動く。
 その美しい旋律を聞きつけて降りてきたのは、三人の天使だ。
 ラファエル。ミカエル。ガブリエル。
 もう待ち切れないのだ。天地創造の栄光と全能の神を讃える言葉を、彼らはその口から紡ぎ合いたくて堪らないのだ。

 勇星が美穂さんと牧師、そして俺の顔を見る。

「日よ、月よ、星よ──」

 光に包まれた大天使サンダルフォン。
 彼の指先が、礼拝室に舞う三大天使の口を──静かに──開かせた。

「星よ──主の言葉を伝えよ!」
 その言葉の終わりを待たず、神の使い、天の軍勢が一斉に賛美の声を張り上げる。

 見よ、我らの──
   ──我らの全能なる主を
 高き天より注ぐ、光の──光の御業を!

 再びサンダルフォンの指先が流れるように宙をかき、嬉しくて舞い踊り続ける三大天使を一か所に呼び戻した。

 その指先の導きは始めはラファエルへ、次にミカエルへ、そしてガブリエルへ──

 空よ、
  水よ──
   大地よ──
「主の栄光を、讃えよ」。
 三人の天使が一番力強く、最大級の誇りと希望を持って紡ぐ言葉。

 讃えよ、讃えよ──
    讃えよ──主の栄光を。

「見よ、我らの全能なる主を。高き天より注ぐ、光の御業を」
 我らの──
  我らの全能なる主を!

 高き天より注ぐ、高き天より注ぐ──光の御業を
 見よ──我らの全能なる主を
   高き天より注ぐ光の、光の──光の御業を──!

 天使達が我先にと競うように神の業を讃え歌う中で──その指先は確かに、七色に輝く五線譜のような光の帯を発していた。

 天より注ぐ光の、天より注ぐ光の、
   光の御業を──

 「光の御業を!」

 勇星が右手で俺達の声を止めた。左腕を大きく振り上げ、海斗に向けて思い切り振り下ろす。それに合わせて最後の鍵盤を叩いた海斗の両手が、ピアノからわずかに離れた状態で停止した。

 海斗は肩で息をしていた。俺も、見谷牧師も、他のメンバーもだ。

「………!」
 横目で見た美穂さんが泣いていたのに気付いて、俺はその手を改めて握りしめた。

 何も頭に入ってこなかった。
 割れんばかりの父兄からの拍手も、ハンカチを握りしめている母親達も、会衆席で嬉しそうに手を叩き、俺達に歓声をあげてくれた子供達も。

 今の俺の頭には、何も入ってこなかった。

 ただ一つ。
 会衆席に礼をしてから俺達を振り返った、その得意げな笑顔以外は──。