「しあわせ」と「みらい」

「こうしてルドルフとその家族は、いつまでも幸せに暮らしました」
 絵本を閉じた俺は子供達の顔を一人一人見て、頷いた。「仔馬のルドルフ」は子供達の大好きな絵本だ。何度も読んだから結末も知っている。それでもふと思い出したように「仔馬のルドルフを読んで」とせがんでくるから、よっぽど好きな物語なのだと思う。
 いつまでも幸せに暮らしました。──一番平和で安心できる締めくくり。だけど今日は、絵本を閉じた後で俺からみんなに問いかけた。

「本当に、ルドルフはいつまでも幸せに暮らしたと思う?」
「だって、そう書いてあるよ」
 突然言われて、不安げな顔をしたのは裕太だ。その裕太に向かって、ユリカが言う。
「分からないよ。このあとどうなるか分かんないもん」
「いつまでも、って書いてるんだから、ずっと幸せなはずだよ」
「嫌なことだっていっぱいあるもん。ルドルフだって、たまーに、嫌だなって思うこともあるかもしれないじゃん」
 子供達が各々自分の意見を出し合う姿を、俺は目を細めて眺めていた。

 今日はつばめ組の園児だけが出席の日。四月から通う小学校の体験入学をして、ついさっき帰ってきたところだ。
 小学校では三年生の教室にお邪魔して、みんなで折り紙をしたり粘土を使って遊んだりとめいっぱい楽しんできた。まだまだ小さな先輩達は、園児達のお手本となって工作を手伝ったり、色々な話をしてくれていた。

 広い体育館で鬼ごっこをして遊び、視聴覚室や理科室、音楽室の案内をしてくれた。歌を歌って、園児達の「小学校はどんなところ?」の質問に答えてくれて、給食までご馳走になって、つばめ組の七人は本当に楽しそうだった。

 残念ながら、居住区の関係などで七人全員が同じ小学校に行くことはない。それでも子供達はランドセルに憧れていたし、一つ大きくなることに対して期待と希望を持っていた。

「いつまでも幸せに暮らしたんだけど、ちょっとだけ嫌なこともあったのかも」
 真梨香が言うと、他の子達もそれに頷いた。
「良いことばっかりじゃつまんないもんね」
「えー、嫌なことばっかりはやだなー」
「おとや先生。じゃあ、ルドルフはどうなったの?」
 テルキが観念したように眉を下げて俺に尋ねた。他の皆も俺に顔を向け、答えを待っている。

「みんなは今幸せ?」
 訊くと、全員が頷いた。
「でも、嫌なこともあったよね。叱られたり、ケンカしたり、幼稚園でも色々あったよね」
「あった!」
「真梨香が言ったように、幸せに暮らしてても、たまには嫌なこともあるよね。でもそれって、嫌なことがずっと続く訳じゃない。嫌なことがあるからこそ、楽しいこと、嬉しいことが、どんなに小さくても幸せだってことに気付くんだと思う」
 よく分からない顔をする子供達に、俺は続けた。