大晦日とお正月 -2-

「あら! ゆう先生、音弥先生」
「あ、テルキのお母さん。リカママも」
 行きつけのスーパーでは、当然だが同じ押川町に住む人達と鉢合わせすることも多い。混雑した店内の野菜コーナーで出会ったのは、つばめ組テルキの母親とそのパートナーだった。俺達と同じ同性同士のカップルで、俺達よりもずっとオープンに暮らしている。町の人達は殆どが二人のことを知っていて、その上で彼女達を受け入れていた。いわば俺達の先輩カップルみたいなものだ。
「先生達も、大晦日のお買い物?」
「ええ。今日は、テルキは一人で留守番ですか?」
「私の両親が遊びに来てくれて、テルキの相手をしてくれてるんです。今年は賑やかな大晦日になるから、料理の準備も大変で」
 カートにはたくさんの食材が入っていた。パートナーと両親、そして愛する息子と過ごす大晦日なんて、凄く楽しそうだ。

「あんた達はどうなの? 音弥先生も手料理とか作るの?」
「は、はい。一応は……」
 美人だけど相変わらず漢らしいリカママが、俺の肩をバシバシと叩きながら笑った。ちなみにリカママは(恐らくテルキのお母さんも)俺達のことを知っている。前に勇星が漏らしたからだ。
「礼拝の時の歌、良かったよ。ゆう先生、あんたもカッコ良かったよ!」
「あ、ありがとうございます……」
「それじゃあ、よいお年を!」
「よいお年を!」
 カートを押しながら、二人が仲良く店内を進んで行く。こうして見るとただ仲の良い友達としか思えないけれど、二人の間には揺るぎない愛情が感じられた。リカママが何かを言って大笑いしているテルキのお母さん。微笑ましくて、思わず頬が緩む。

「女同士のセックスってどうやるのか聞くの忘れた」
「……勇星、そんなこと考えてたのか」
「腹減ったな。音弥くん、今日はすき焼きにしようぜ。肉食いてえ」
「年越しそばもあるから、そんながっつり食わない方がいいんじゃない?」
「大丈夫、俺にとって肉は別腹だ」
「じゃあ俺、野菜とか魚選びながら通路に沿って肉のとこまで行くから、先に行って食いたい肉取ってきてよ」

 人の間を窮屈そうに抜けながら、勇星の後ろ姿が店内奥へと消えて行く。ゆっくり時間をかけて野菜を選び、豆腐や納豆を取り、ついでに冷凍のエビをカートに入れて──こんな大晦日は初めてだなとふと思う。これまでは大晦日も元旦も、コンビニの弁当で済ませていた。料理なんて殆どやってこなかった。家で鍋を作るのも初めてだ。ちなみに、年越しそばを食べるのも。

 一人が寂しいとは思わなかったけれど、誰かが傍にいてくれるって良いものだなと思う。勇星なら気を遣うこともないし干渉し過ぎたりもしないから、一緒にいても全然息苦しくならない。同棲に付きものと言われている「たまには一人になりたい」という気持ちにさえならない。それはまだ俺達の歴史が浅いからだろうか? 長く付き合うにつれて、お互い鬱陶しくなったりする時も来るのだろうか。

「音弥、取り敢えずこれ」
 戻ってきた勇星が、手にしていた幾つもの肉のパックをカートに乗せる。
「……値段のこと言うの忘れてた」
「後はビールと焼酎とジュースと、つまみになるような缶詰とお菓子も取ってこねえと」
「なあ、持って帰るの大変だからそんなに沢山要らないって。食べたくなったらコンビニ行けばいいじゃん」
「一度で済ませた方が楽だろ。俺が持つから気にするな」
 確かにコンビニよりスーパーの方が安いから、勇星が持ってくれるならここで全て済ませた方が楽ではあるけれど。
「三が日は一歩も家を出たくねえんだ。音弥くんとのんびり過ごすって決めてるからな」
「初詣とかは、やっぱ行かないんだ?」
「ああ、そうか。……音弥くんが行きてえなら付いてくけど、参拝はしねえ。たこ焼き食って待ってるよ」
「教会での新年礼拝とかあれば良かったけど、見谷牧師も海斗も実家に帰るって言ってたもんなぁ。礼拝は五日からだっけ」

 クリスチャンは年末年始に何か特別なことをするということはない。クリスマスが終わればちょっとした休みが取れるというだけだ。勇星も昼間から酒が飲めるのが嬉しいだけで、正月については特に何を感じるという訳でもないとのことだ。
 俺も初詣は行ったり行かなかったりで、新年の大事な行事とはそれほど思っていなかった。集まる親戚もいないし、帰る実家もない。年末年始の慌ただしい空気は好きだけど、確かに正月だからと何か特別なことをしている訳ではなかった。

 勇星とのんびり過ごす正月。それも良いのかもしれない。