大晦日とお正月

 クリスマスから六日後、十二月三十一日──大晦日。

「あああ、ぬくぬく最高……」
 あの夜泣いていたのが嘘のように、冬休みに入ってからの勇星は常にだらけモードで寝てばかりだ。昼間からビールを飲んでお菓子を食べて、映画のDVDを見て酔っ払って。
「なあ勇星、大晦日だから大掃除しないと」
「まだ越してきてそんな経ってねえだろ。しなくて平気だって」
「大掃除しないならセックスもしないよ」
「何という交渉上手」
 勇星がふらつきながら身を起こし、俺の手から雑巾を取った。一体どれほど飲んだのか、しゃっくりをしながら窓を拭いている。

「酔っ払ってもピアノって弾けるモンなの?」
 ラグをどけて床を拭きながら問うと、勇星が「ふふ」と笑って「弾いてやろうか」とピアノの前に移動した。
「音弥リクエストカモン」
「じゃあ、革命のエチュード、……とか」
「ショパンちゃんな、オッケー」
 鍵盤の上で両手を構える勇星。
「……いくぞ、っ……」
 出だしの「ジャーン」から既に、俺でも分かるほど音が外れている。
「あっはっは、無理だ!」
「……世界一無駄な時間だったな」
 溜息をついて床拭きを再開し、勇星もふらふらと窓の方へと戻って行った。

 風呂とトイレ、台所のシンクに網戸。半日かけて大掃除をした後で、今日は早めに風呂を沸かした。
「音弥くん一緒に入る?」
「ううん。俺買い物行ってくるから、勇星はゆっくりしててよ。何か買ってくるモンある?」
「買い物なら俺も一緒に行きてえ」
「いいけど、近所のスーパーだよ?」
「多分、大晦日で混んでるだろ。音弥くんが痴漢に遭わねえように俺が守らねえと」
 まだ酔いが残っているのだろうか、勇星が俺の肩に腕を回して言った。
「一生俺に付いてくって言ってくれたろ。俺も音弥くんの後を一生付いてくからな」
「そ、そんなストーカーみたいな意味で言ったんじゃないんだけど」
「結婚しような。イタリアで式挙げよう」
「はいはい」

 クリスマスを一緒に過ごしたあの日以来、勇星の愛情表現がこれまでよりずっと分かりやすいものになった──気がする。事あるごとにキスをして、テレビを見たり寛いでいる時もどこかしら体が触れていて、一週間連続でセックスもしている。
 外を歩く時も人目を気にせず手を繋いだり、俺の腰に手を回したり。流石に外でキスはしないけれど、俺達の関係はじわじわと少しずつ、町の人達にバレ始めているのでは、と思う。

 俺も勇星との付き合いを絶対隠したいと思っている訳じゃないけれど、それでも、子供達の親からどう思われるかを考えれば計画無しにカミングアウトするのは躊躇してしまう。夫婦で先生をやっている人達はいるけれど、恋人同士でというのは聞いたことがない。それも、同性同士で。

 結婚──それをしているかしていないかで、世間の見る目が変わるのかもしれなかった。

「……勇星まさか、イタリアで誰かと結婚したりしてないだろうな」
「No,Ti amo solo te per sempre」
「は?」
「ニヒヒ」
 玄関へ向かった勇星が靴を履き、「早よ来い」と俺を手招きした。