秋のデートと俺達の目標

 十一月に入って、いよいよ冬の匂いが近付いてきた。この時期になると気が早い店はクリスマスの飾りなどを始めていて、ちょっとだけ賑やかになった町を歩いているだけでわくわくしてくる。

「勇星。別にいいんだけど……クリスマスさぁ、何か考えてる?」
 十一月二日の土曜日、今日は買い物で都内のショッピングモールまで来ている。流石にお洒落で店もたくさんあり、ついでに言えば男女のカップルが凄く多い。
 モール内の休憩所。天使の羽根が付いたオブジェみたいなベンチに座ってカフェラテを飲みながら、俺は勇星に問いかけた。
「何かって、何だ?」
「分かんないけど……」

 子供の頃は毎年施設でクリスマスパーティーをしていたけれど、十五歳くらいから幼稚園で働くまでの間は、クリスマスの思い出があまりない。
 幼稚園でのクリスマスもあくまで子供達を「楽しませる側」で、終わってからはいつも通り家に帰って飯を食って寝てという、普段と何も変わらない一日として過ごしていた。……けれど、今年は勇星がいる。恋人と過ごすクリスマスなんて、人生初めてのことなのだ。

 恋人と過ごすクリスマス──漠然としたイメージしかないけれど、ちょっとロマンチックだなとは思う。

 勇星が「ぷっ」と噴き出し、「意外と乙女チックなこと考えてるんだな」と俺を笑った。
「だ、だってさ。クリスマスってそういう、……意味じゃないのは、分かってるけど」
「まあでも、礼拝とは別に家でもパーティー的なモノはしてえよな。音弥くんがやりたいのはチキン食ってケーキ食って、靴下飾って、枕元にプレゼントだろ」
「……そこまで子供じゃねえもん。枕元にプレゼントなんて、あったことない」
 むくれてカフェラテのカップに口を付けると、勇星の手が俺の頭を撫でてきた。
「可愛い。子供の頃の音弥くんのサンタになりたかったよ」
「な、何言ってんだ」
「仕方ねえ。今年のクリスマスは音弥くんがやりたいこと、全部俺が叶えてやる」
「ほんと?」
「ああ、外デートでも家パーティーでも、やりたいこと考えといてくれよ」
 嬉しくて思わず笑み零れてしまう。何をしようか、今から楽しみだ。

「──あの、すみません」
 ふと、目の前に知らない男の人が現れた。

「そのベンチ、少しだけ借りてもいいですか? 座ってるところ写真撮ってSNSに載せたいって、彼女が言うんで……」
「あ、どうぞどうぞ。そんな有名なベンチなんですか、これ」
「彼女が言うには、カップル撮りする人が多いらしいですよ。天使のベンチだとかで」
「へえ」
 立ち上がろうとした俺の腕を勇星が掴み、再び座らせる。
「どくけと、その前に俺達を撮ってくれよ」
「ゆ、勇星っ……」
 男の人にスマホを渡して脚を組み、俺の肩に腕を回す勇星。下手なことを言うよりは早く済ませてしまった方が早いと思って、俺は座ったまま縮こまった。
「じゃ、じゃあ撮りますよ」
 スマホを構える男の人の横で、彼女らしき子がくすくすと笑っている。恥ずかしくて堪らなかった。