夏休みと二人の旅行 -4-

 そんな訳で、俺はいま勇星とI市の南側、関東のリゾート地として有名な場所に来ている。押川町からレンタカーを借りて約三時間半。ホテルに着いた時には、勇星は運転の疲れで早くも機嫌が悪くなっていた。

「まだ二時だろ。荷物置いたらビール飲んで昼寝してえんだけど」
「でも、海は?」
「ホテルから目と鼻の先だ、いつでも行けんだろ」

 朝食と夕食付きで、プライベートビーチにプールも付いたホテル。窓からは海も山も見えるし部屋自体も広く、綺麗だ。俺は部屋の豪華さだけでもテンションが上がりっぱなしなのに、どうして勇星はこんなにも落ち着いていられるのだろう。今すぐ着替えて海に行きたいと思う俺は、やはり牧師が思うように子供なのかもしれなかった。

「じゃあ俺、先に一人で海行ってるよ」
 着いて早々、現地解散。お互い好き勝手に行動するのも気を遣わなくて済む間柄という感じで、少し寂しいけれど悪くはない。

 ホテルの裏側にあるプライベートビーチは意外と空いていて、俺のように一人で来ている人もいた。ただ、皆それぞれ肌を焼いたりパラソルの下で読書をしたりと、あまり「海で遊んでいる」感じではない。

「……入っても大丈夫だよな?」
 レンタルしたパラソルを立ててもらい、シートにサンダルを置き、足の裏に熱い砂を感じながら波打ち際へと近付いてみる。透明の水は驚くほど綺麗で、波が寄せる度に貝殻や砂の粒がくるくると動いている様子が見えた。
「冷た!」

 足首に海水と砂がまとわりつく。思い切ってどんどん進み、腰から胸まで海に浸かる。照りつける太陽と冷たい海水が絶妙に心地良くて、俺は海底から足を離し潮の流れへと身を委ねた。

 ──気持ちいい。
 太陽と海の間で浮かんでいると、何だか不思議な気持ちになってくる。誰の手で作られた訳でもない自然。こんなにも美しいものが確かに存在しているなんて。都合が良いけどこういう時だけは、神による創造を心から素晴らしいと思ってしまう。

「音弥!」
 突然名前を叫ばれ、ハッとして目を開ける。
 見れば砂浜に勇星が立っていた。シャツを羽織ってサーフパンツを穿いて、だるそうに首を傾げて俺を見ている。

 泳いで波打ち際まで行き浜に戻ると、勇星がずぶ濡れの俺を見て「子供かお前は」と馬鹿にしたように笑った。
「楽しいよ。勇星も入れば」
「俺は今回、保護者だからな。ここにいるから好きに遊んで来い」
「こんな炎天下で寝たら肌痛くするよ。ヒリヒリになる」
「焼くつもりはねえから大丈夫だ」
 好きにすればいいとは思うけど、せっかくだから勇星も海を楽しめばいいのに。
「ひょっとして泳げないとか?」
「そういう問題じゃねえ。後始末が面倒なだけだ」

 そう言って勇星がシートに腰を下ろし、取り出したスマホを何やら弄り始めた。場所がワンルームから浜辺になっただけで、勇星のやることは変わらない。ゲームをやっている様子ではないし、スマホで何をそんなに見ているというのだろう。