夏休みと二人の旅行

『七月十九日 明日からいよいよ夏休み! 海に行って川に行って……真っ黒に日焼けしたみんなに会うのを、先生たちは楽しみにしています!』。

 七夕も終わって、七月十九日。夏休み目前の金曜日。
 園の庭に出したビニールプールに水を溜めていたら、ユリカがやってきて俺の手を握った。
「おとや先生ー。夏休み、わたしとリエとね、お父さんお母さんとで、おばあちゃんち行くんだよ」
「へえ、いいなぁ。何して遊ぶんだ?」
「川とか行くんだよ。おじいちゃんがわたしとリエに魚釣ってくれるって」
 ユリカはつばめ組でもしっかり者のお姉さんで、リエというのは二つ年下の妹、こまどり組のユリエのことだ。
「楽しみだな! 怪我しないように気を付けて、たくさん遊んでくるんだよ」
「うん!」

 こまどり組とうぐいす組は午後から市民プールへ行っている。つばめ組は昨日行ったから、今日は俺と勇星と一緒に留守番だ。

「おとや先生は夏休みどっか行くの?」
「どうだろうなぁ。行けるといいんだけどなぁ」
 ホースの水を止め、額の汗をタオルで拭く。すると、プール前にしゃがんで待っていた他の子達が「入っていい?」と待ちきれない様子で俺を見上げた。
「いいよ!」
 わあ、と四人の子供達がプールにダイブする。夏休み前の金曜ということもあり、今日から一日早く休みを取っている子供もいて、本日のつばめ組はユリカを合わせて五人だ。

「わたしも入ろーっと」
 ユリカがプールに入ったのを見て、俺は皆に水鉄砲を渡した。七夕の時に勇星がもらってきたオモチャだ。プラスチックのシャベルやバケツにじょうろ、それから水鉄砲ときてテンションが上がる子供達。水がばっしゃばっしゃと跳ねている。

「クソ暑い中、よくやるぜ」
 うちわを片手に、勇星が教室から声をかけてきた。半袖シャツとハーフパンツ、サンダル。相変わらず気だるげな格好だ。

「ゆう先生もプール入ろー!」
「やりてえけどパスだ。今日は風邪気味だからな」
「……嘘つけ、外に出たくないだけだろ」
「じゃあ、おとや先生あそぼー!」
「よーし」
 ホースの先を絞って蛇口をひねり、うんと高いところから子供達の頭上へとシャワーをかける。

「わー! おとや、虹! 虹出たー!」
「ほんとだ!」
「きれーい」
 はしゃぐ子供達をずぶ濡れにして、ついでに花壇へ水をやる。スプリンクラー代わりに園庭の地面にも水をまき、太陽の光をめいっぱいに受けながら明日から始まる夏休みを想った。

 これといって予定はないし、日曜は教会の手伝いをするというのは変わらない。

 だけど去年と違うのは、──

「音弥くん、年中と年少組がそろそろ帰るってよ。おやつの準備しとけって」
「教室の中にいるなら、おやつ用のテーブル出して椅子もセットしといてよ」
 去年と違うのは、職場もそうだけど家にもこの男がいるということで。

 夏休み、勇星と家で二人になる時間がいつもより大幅に増えるということで……