ゆう先生とまさかの夜

『六月二十八日 高下先生の代わりに、今週から新しい先生が来て下さいました。ゆう先生、子供達にすっかり大人気です』。

 翌日、金曜日。
 今朝は朝の礼拝で、二十人の園児達に「新しい先生」を紹介することとなった。

「空島勇星だ。俺も子供の頃はちょっとだけここに通ってた。みんな、よろしくな」
「よろしくおねがいします!」
 勇星本人より子供達の方が礼儀正しいって、どうなんだろう。俺は両手をあげたり拍手をしたりする園児と並んでベンチに座り、得意げな顔で説教壇の前に立つ勇星を見つめていた。

 ……シャツのボタンは大きく開いているし、ジーンズだし、サンダルだし。昨日寝る前にあれだけ髭を剃れと言ったのに、剃っていないし。いくら素材が男前でも、これでは父兄からクレームがきそうだ。

「イケメンだなぁ。音弥くん、彼と俺とどっちがカッコいい?」
 一つ後ろのベンチから海斗が身を乗り出し、俺に耳打ちをする。
「牧師が一番カッコいい」
「確かに」

 その見谷牧師が勇星の肩を叩いて頷き、子供達に向かって笑った。
「みんな、勇星先生が分からないことは何でも教えてあげなさい」
「ゆうせいせんせいって、言いにくいね」
 最前列のミナが隣のタカヒロに言って、その周辺で笑いが巻き起こった。
「た、確かに言いにくいかぁ。それじゃあ、空島先生……だと、何か硬いしなぁ。それじゃあ、ゆう先生にしようか」
「ゆう先生!」
 子供達が勇星に向かって声をあげる。決定の雰囲気だ。

「何でもいいよ、好きに呼んでくれ」
「よし。呼び方も決まったところで、朝の歌を歌おうか。勇星、早速『おひさまは今日も』の伴奏をお願いできるかな。覚えてるか?」
「何となく」
 オルガンの前に座った勇星が、両手を鍵盤の上へ置く。ちなみに音の出ないキーはそのままだ。

「はい、みんな立って。元気に歌おう!」
 前奏が始まる中、「オルガンは俺の仕事なのに」と海斗が愚痴を漏らした。

 おひさまは今日も、かがやいています
 みどりのはっぱも、かがやいています
 かみさま、今日も朝をありがとう
 ぼくらもみんな、かがやいています

「………」
「はい、じゃあ座って──」
 見谷牧師が言い終わる前に、勇星が突然別の曲を弾き始めた。
「あっ、『おそらをとんで』だ!」
 それは昨夜、勇星が控室で口ずさんでいた歌だった。
「おそーらをとんで、地球を見よう!」
「あおく、まーるい、きらきらわくせい!」
「ほーしーも、ぼくらも、みんなもー」
「かみさまと生きるこどもたち!」
 好きな歌にテンションの上がる園児達。見谷牧師は慌てながらもちゃんと歌ってくれている。

「二番も行くか?」
「勇星。ストップ、充分だ、ありがとう」
「朝っぱらから眠くなるような歌より、子供らの好きな歌の方がいいだろ」
「そ、そうだな。ありがとう。明日から考えておくよ」
 牧師に戻るよう促された勇星が、俺の後ろ──海斗の隣に腰を下ろす。
「割と破天荒っすね」
 海斗の声が聞こえたが、勇星は黙ったままだった。