遥か、愛しのニライカナイへ捧ぐ歌 -5-

「久高で海に行った時のこと、覚えてるか?」
 歩きながら、ふいに明鷲が言った。

「覚えてるよ、あの断崖絶壁を下りてった所だろ。ウディ浜だっけ、波打ち際まで魚が来てた。誰もいなかったし、かなり穴場だったな」
「あの浜、遊泳禁止になったさーやー」
「えっ、そうなの?」

 神聖な島である。パンフレットやフェリー内で見た紹介映像では、「島にある石や生えている草花などは一切持ち出し禁止」ということをかなり強めに説明していた。全てに神が宿っているからだ。当然、海そのものにも。

「もしかして、本土からの観光客が迷惑かけたとか?」

 SNSで迷惑行為の動画や画像が拡散される時代だ。何が楽しいのか、やってはいけないと分かっているのに実行してしまう者が後を絶たず、ニュースに取り上げられなくてもそれを模倣する者も大勢いる。

 入ったらいけない場所。持ち出してはいけない自然。決まりの多かった久高島で、そういった者が大人しくそれに従うとは思えない。

「いや、単純に危険だからじゃねえかな。あそこまで行くのも危なかったし、潮が満ちるのも早いから南雲も怖がってただろ。今はフェリー乗り場近くの一か所だけ、メーギ浜しか入れねえんだって」

「そうなんだ。残念だな……」
「でも、最後に南雲とウディ浜に行けて良かったさー」

 その言葉に胸が熱くなり、俺は唇を噛みしめた。

 それから市内を回って、俺が知る範囲での有名スポットや人気の服屋などを明鷲に案内した。
 明鷲は見るもの全てに感動し、整った大きな目を更に見開き、笑っていた。本土の蕎麦かステーキも食べてみたいと言うので、昼は蕎麦屋へ、夜はステーキハウスへと連れて行ってやった。

 それからビールを飲んで、良い具合に酔いが回ってきたところでカラオケへ行き、明鷲のバカでかい歌声を聴いて爆笑して、また乾杯し、少しだけ疲れて互いに黙った。

 底抜けに明るい明鷲の太陽みたいな笑顔は、一年前と何も変わっていなかった。
 扇風機の前で畳にあぐらをかき、蕎麦を啜っていた明鷲。
 オバァの家の縁側で麦茶を飲みながら団扇を振っていた明鷲。
 どこまでも真っ青な空と海の間で、赤いハイビスカスに見とれる俺を笑っていた明鷲。

 あの夏、誰よりも一番輝いていた明鷲──。