8 -3-

「あ、そういえば今日奥田っちに聞いたんだけど、新店出すって話、響希知ってた?」

 翔宇が弾む足取りで冷蔵庫に向かい、中からビールを取り出して言った。

「え? 聞いてない。そうなの? どこに出すんだろ」

 差し出された缶ビールを受け取り、俺は首を傾げる。

「えっと、駅の反対側に系列店ができるんだってさ。そんで、俺と響希、そっちに行かされるかもしんないって」

「なんで俺達? もっと若い奴行かせた方が客も食い付くだろうが」

「知んないけど、結構でかい店だから募集かけてもボーイが足りないらしいぞ。俺ら信用されてるし、それなりに売れてるからじゃねえの?」

 同じ店舗間での異動だったら別に断る理由もないけれど、このままだとますますこの世界から抜け出せなくなるような気がして、俺は溜息をついた。

「強制じゃないなら、行かない。俺は今のとこでいいよ」

「えー。新店だぜ? 綺麗だし新しい常連もできるかもしんないのに」

「俺は現状で満足してっから、いい。行きたいなら翔宇だけ行けばいいよ」

「響希が行かないなら俺も行かないっ」

 唇を尖らせる翔宇の顔とその言動が可愛くて、俺は笑った。

「零にその話して、移ってきてもらうってのはどうだ?」

 そんな提案をすると、翔宇がビールを呷りながら眉根を寄せた。

「あいつナンバーがどうのとか言ってたじゃん。言っても来ねえだろ」

「俺らが余計なこと言ったから、スタッフの彼氏が贔屓すんの止めちゃったんだってよ。新人も増えて、客つかないって愚痴ってたぞ」

「ふぅん。じゃあ、この機会に売り専辞めればいいのに。若いんだし、あいつなら普通の仕事も余裕でできるだろ」

「………」

 そうはいかないらしいことは俺しか知らない。稼いだ金を男に使っていることは、翔宇に言わない方が良いと思った。口止めされた訳ではないが、零のプライベートな問題をわざわざ俺の口から広める必要はない。

「でもまぁ、一応声かけてみっか。店長にも話聞いて、俺から零に連絡しとくよ」

「そうしてやってくれ」

 何も知らないのは翔宇だけだ。零が惚れた男に貢いでいることも、俺が翔宇を好きだということも。

 そしてその想いがここ最近になって、急激に膨れ上がってきていることも。