8 -2-

 俺は一つ深呼吸して気持ちを静め、ゆっくりと言葉を区切りながら話した。

「ただ俺は、翔宇が特別零とヤりたがってんの知ってたから、ヤッたならヤッたで話してもらいたかったんだ。俺ら学生の頃からそういう話して盛り上がってたじゃん。……でもまぁ、よく考えてみたら普通の大人はそういう話はしねえのかも……」

 後半にかけて声が萎んでしまった。なんだか自分がものすごく馬鹿なことを言っているような気がして、途端に恥ずかしくなってきた。

 翔宇が溜息に似た動作で紫煙を吐く。

「いや。俺が零とヤッたなら、間違いなく響希に言ってるってよ。ありもしねえ話を決め付けで言われると、そりゃ腹も立つってもんだろ」

 そう言った翔宇の口調は普段通りの優しいものに戻っていた。片眉を吊り上げて笑いながら、俺に向かって何度も頷く。

「……じゃあ、本当に零とはヤッてないのか」

「マジで全然、だ。だからこそ、花火大会の日にどうのこうのって言ってたんじゃん。それに、こんなこと嘘ついたって何の意味もねえだろ?」

 考えてみれば確かにそうだ。

「……じゃあ、零はどうしてあんなこと言ったんだ?」

「知るかよ。響希に嫉妬させようと思って言ったんじゃねえの?」

「なんで俺が……」

 言いかけて、ふと気付く。

 ああ、なんとなく理解できた。あのやりとりで零は、俺が完全に翔宇に惚れていると見抜いたとか言ってたっけ。俺の気持ちを探るために、わざわざあんな嘘を……。

 零に上手く誘導されたことを知り、そのせいで翔宇と不必要な言い合いをしてしまったことに腹が立った半面、零と翔宇が本当はまだ一線を越えていないと分かって少し安心した。

「しかしあの小僧、意外と小悪魔的なテク使うんだなぁ。なかなかやるな」

 翔宇は、俺の「嫉妬」の相手が自分だと思い込んでいる。

「でも大丈夫、マジで俺はヤッてねえから安心しろって」

「翔宇の言う通り、誰が誰とヤろうと別にいいんだけどさ。ていうか、俺は零に気があるわけじゃないから……」

 言った瞬間、翔宇が身を乗り出してきた。

「そうなのか?」

「う、うん。……なんだよ翔宇、俺が零のこと好きだと思ってたのか?」

「思ってた。なんとなく思ってた。だからやけに怒ってんのかと……。それにお前って、人付き合いそんなに良い方じゃねえじゃん。一、二回会っただけの子に誘われてついてくような奴じゃねえだろ?」

 翔宇は笑っていた。それは「自然と顔が綻んでしまう」といった種類の笑い方だった。俺が零に恋愛感情を持っていないと分かったのが、そんなに嬉しいのだろうか。

「いやぁ、響希が零を好きなら譲ろうと思ってたからよう、なんかすげえ安心した。うん」

「そうか……」

 やっぱり翔宇は零のことが好きなのだ。だけど、零はあのくだらない男が好きで翔宇のことはただのセフレとしか思っていない。

 聞いたばかりの零の言葉が頭を過る。

 ──みんなが幸せになれるといいのになぁ。

 今のところ、見事に全員不幸せ。

 胸が痛んだ。

「………」