7 -6-

「俺は今の関係を崩す気はない。翔宇が誰と付き合おうが関係ないし、それならそれでいいと思ってる」

 ステーキを半分以上残して、俺は煙草に火を点けた。この焦りと苛立ちを抑えるためにはどうしても一服する必要があると思ったからだ。

「悲しいね」

 零の意味深な言葉に、眉を顰める。

「何がだ」

「響希くん、本当はそんなこと思ってないはずなのに。そう思わないと心が潰されちゃうから、強引に自分に言い聞かせてるんだ」

「お前に何が分かる」

「分かるよ。俺も同じだから」

「………」

「俺も響希くんと全く同じ。好きな人に素直になれなくて、何かあるたびにいちいち自分に言い訳して、自己嫌悪とかしょっちゅうだよ。だから響希くんのことが他人事とは思えないんだよなぁ」

「……彼氏とうまくいってないのか?」

「俺の彼氏ってバイセクシャルなんだけど、最近は同じ大学の女の子に夢中になってるらしくて。元々俺は、初恋の女の子に似てるからって理由で告白されたんだけどね」

 息が詰まりそうになった。

「他に好きな子がいるなら、俺はもう別れたいんだけどさ。でも優しくされると、あーやっぱ俺はこいつが好きなんだなぁって思って、何も言えなくて。都合良く扱われてるってことも知ってるのに、結局いつも別れられないんだよね」

「セックスはしない仲なんだろ。都合良く、ってどういう意味だ?」

 俺が問うと、言いにくそうに視線を泳がせながら零が白状した。

「お金、貸してる」

「えっ」

「部屋の家賃とか、生活費とか、遊びに行く時とか煙草代とか、ほとんど俺が出してる」

「馬鹿か、そんなの今すぐやめろよ。そんでさっさと別れろ」

「本当に馬鹿だよ。だって、それでも傍にいてくれればいいって思ってるんだもん」

 思わず拳を握りしめる。

 一瞬、目の前で寂しそうに笑っている零の顔を殴り付けてやろうかと思った。だが当然そんなことが出来るはずもなく、俺の拳はテーブルの上に乗ったまま動かない。

 零の想いは俺と似ている。

 相手が好きで仕方ないからこそ、相手の好きにさせるしかないのだ。これ以上傷付くのが怖くて、自分の気持ちを伝えることができない。零が笑顔の裏に隠している心の傷がどれほど深いのか、それは俺が一番よく分かっているのではないか。

 例え自分に気がなくても、傍にいてくれればそれでいい。

 俺と全く同じだ。

「いいことばっかじゃないよね」

 無理に笑顔を作りながら、零がステーキの最後の一切れを口に入れた。

「みんなが幸せになれるといいのになぁ」