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 何か空気を変えるような話題はないものかと思い巡らせていると、俺の横に置かれている零の買い物袋がふと目についた。

「こんなにたくさん、何買ったんだ?」

 零の顔がパッと明るくなる。

「えっと、服が殆どだけど、セールでアクセとか鞄とか安かったから買ったんだ。あと秋物もいろいろ出てたから買っちゃったよ。ジャケットとかブーツとか」

「まだ七月なのに、早いところはもう秋物の時期か」

「結局暑くて着れないのは分かってるんだけどね。だから買い物なんて、所詮は自己満足なんだよ。俺の場合はストレス発散の手段!」

「ストレスって、やっぱ仕事で?」

 零がソファにもたれ、大袈裟に溜息をついた。

「最近、なかなか稼げなくってさぁ。若くて可愛い新人がいっぱい入って来ちゃったから、俺の常連さんも何人かそっち試しに行っちゃって。新規で六十分とか、そういう細かいのしかないんだよね。昨日なんて何時間もお茶挽いてたんだよ。嫌になるー」

「分かる分かる。でも週末近くになったらソッコーで予約入るだろ」

「どうかな。それに、こないだ翔宇くんと響希くんに言われたこと彼氏に言ったら、ビビって客付けてくれなくなっちゃったし」

 項垂れる零を見て、俺は笑った。

「じゃあ、俺が休みの日にさ、零が出勤して暇だったら指名してやるよ」

「ほんとっ? 響希くんが?」

「いいよ。がっつり半日くらい使ってやる」

「うわぁー。じゃあ俺もがっつりサービスしないとね」

 零が俺の手を握って、嬉しそうに目を細める。俺にできることと言ったらこの程度だ。零の彼氏をビビらせてしまったことへの罪滅ぼしの気持ちもあった。

「零の源氏名、何だっけ」

「光、って書いてコウだよ」

「おっけ。絶対行くから、暇だったらいつでも連絡してくれ」

「分かった!」

 その時、タイミングを見計らったかのようにポケットの中でスマホが振動した。

「あ、やばい」

 翔宇に連絡するのをすっかり忘れていたのだ。

 取り出した端末のディスプレイには、案の定翔宇の名前が表示されていた。躊躇いつつ、通話マークをタップする。

「もし、翔……」

〈響希ー。お前なに勝手にあがってんだよ、待ってろって言ったじゃん。終わって部屋戻ったらお前いねえからびっくりしたぞ!〉

 翔宇の不機嫌な声が耳に心地良くて、俺は頬を緩ませた。

「ごめん。今、駅の方にあるファミレスにいるわ」

〈飯食ってんの? 俺も行く〉

「零もいるよ」

〈……ほぉん〉

「なんだよ」

〈別に。俺が汗水垂らして働いてる間に、響希は零と楽しく過ごしてたのかぁと思って〉

「突っ掛かるなよ。別に飯食ってるだけだ。ていうかまだ飯も来てないけど」

 俺が言ったのと同時に、テーブルの上に和風ステーキの皿が置かれた。

「あ、今来た。ステーキ超美味そう」

〈そういう実況はいいから。あ、ちょっと待って響希……〉

 翔宇の声が遠のいた。

 零が俺の電話が終わるのを待っているらしいことに気付き、先に食うよう手で合図する。

〈……ごめん、もう一本予約たもうた。今度は出張だから、そっち行けそうにないわ〉

「ん。分かった、頑張れよ」

〈俺がいないからって零とヤるなよな。絶対だぞ、分かったか〉

「うるせえな、そんなの俺の勝手だろ」

〈おい、ちゃんと約束しろよ〉

「いいから早く行って来い。どうにか延長取ってまた焼き肉奢れよ」

〈響希の馬鹿!〉

「馬鹿って言う奴が馬鹿」

 通話を切ってスマホをしまう俺を、零がステーキを頬張りながらニコニコ笑って見ていた。