2 -3-

「おっ」

 ビニール袋を手にぶら提げた翔宇がコンビニから出てきて、俺と彼を交互に見てから声をあげた。

「なんだよ、レイ! ずいぶん早かったな。ほい響希、煙草」

 俺の隣で水色の傘を揺らしている彼が翔宇に気付き、にっこりと微笑む。

「話しながら向かってたからね」

 そこで俺は悟った。どうやら彼が翔宇の言っていた男らしい。

「零。こいつがさっき言った俺の友達だ。八坂響希」

「初めまして、桐島きりしま零です」

「こんにちは」

 丁寧にお辞儀をした零が、上目に俺を見つめて笑っている。営業スマイルとは分かっていても、こんな笑顔を向けられたらこのテの男が好きな客は一溜まりもないだろう。

 かなり売れてるな。直感的に思った。

「な? 可愛いだろ、響希」

「ああ」

 としか言いようがない。別に俺の好みではないが、一般的に見て可愛いのは認める。

 それから傘を差し、零を挟んで三人で歩きながら、俺は零に翔宇との出会いについて訊ねた。

「翔宇くんがね、今月の頭くらいに予約して店に来てくれたんですよ」

「ふうん。それで仲良くなったのか?」

「店外で食事だけして終わったんですけど、それが超楽しくて。内緒で番号教えちゃったんです。マジで秘密ですよ、店にバレたら怒られる」

 その顔があまりにも嬉しそうだったから、俺はつい意地悪なことを言ってしまった。

「翔宇は他の店の子に声かけまくってるからな。あの界隈の殆どの客と穴兄弟だぞ」

「そうなんですか?」

 バラされて焦ったらしく、すかさず翔宇がフォローを入れる。

「で、でもさ。こうやってオフで会うのは零が初めてだぜ」

「俺も、お客さんとオフで会うのは初めてですよ」

 顔を見合わせて笑う二人に気付かれないよう、俺は小さく舌打ちした。

「響希くんは翔宇くんと一緒に暮らしてるんですよね? 仲いいなぁ」

「ああ、こいつとは中学からの幼馴染だ」

 幼馴染、という部分に心なしか力が入った。だから俺達の間にお前が入る隙なんてないんだ、という意味が含まれている。嫌な奴だと自分で思った。

「いいなぁ。俺、中学の友達なんて今どこで何してるか分からない奴ばっかですよ」

「でも零、十八歳ってことは高校卒業したてだろ?」

 翔宇が訊くと、零は笑いながらかぶりを振った。

「高校は一年で中退したんですよ。ゲイなのがバレて一部から虐められちゃって」

「………」

 そんな暗い過去を笑顔で話されても困る。

「だから今はすごく楽しい。お店のスタッフさんもお客さんも優しいし、こうやって友達もできたし」

 翔宇が笑って頷いている。俺は笑おうとして、……笑えなかった。

 その楽しい時間には限りがあると知っていたからだ。五年後も今と同じように客やスタッフから優しくされているかと言ったら、そんな保障はどこにもない。

 今の零は確かに若くて美しい。だけど若さをウリにできなくなった時のことを想像すると、他人事ながら哀れに思えてきた。そしてもちろんそれは、俺達にも言えることなのだ。

「俺んち、ここです」

 十五階建てのマンションの十階。最寄駅もそこまで遠くないし、なかなか良い場所に住んでいる。