獅琉、スイッチオン -6-

「ふあぁ、気持ち良かった!」
「……クッソだるい。何で俺こいつの部屋で無駄イキしてんだ……」
 艶々と湿った肌をタオルで拭う獅琉と、ベッドに倒れて溜息をつく潤歩。俺はティッシュで手と鼻を拭いてから、未だ熱くなったままの股間を見下ろした。何度確認しても同じだ。男同士の絡みを見て勃起してしまった事実が、今ここに存在している。
「だらしないな潤歩。セックスしたわけでもないのに……体力落ちたんじゃない?」
「うるっせえ、この性欲化け物。……こちとらジム帰りなんだよ馬鹿野郎」
 息切れしている潤歩に対して、獅琉はもうけろっとしている状態だ。一ミリも体力消耗していない俺だってまだ心臓が高鳴っているのに──これはまた別の問題か。

「でも亜利馬、そこまで鼻血出なかったね」
「そ、そういえば。でも風呂場で一度、結構な量が出たので……。昨日の分も合わせれば、もう残ってないのかな?」
「そういうシステムなの?」
 よく分からないけど、確かに俺にしては少なく済んだ方だ。未だかつてないほどの壮絶な現場を目にしたというのに、出たのはティッシュ二枚で収まる量だけ。もちろん興奮したしドキドキもしたけれど、風呂場で獅琉の全裸を見た時の方がずっと衝撃的だった、……ような気もする。

「もしかしたら、サプライズ的なものに弱いのかもね。流れがあったり心の準備が万端にできてれば、多少は違うのかも」
「サプライズ、ですか……」
「うん。例えばいきなりエロい話されたりとか、いきなり裸見たりとか、そういう時。予想してなかった分、急に血が上っちゃうのかも」
 確かに獅琉の言っていることは一理ある。ついさっき潤歩に羽交い絞めにされた状態で獅琉の裸を見た時も、頭は沸騰したけど鼻血は出なかった。
 それに、昨日オナニー撮影をした時も。あれだけの妄想をして直に刺激を与えていたにも関わらず、今と同じくらいの少量の出血しかしなかったし。

「お前ってさぁ」
 潤歩がベッドに寝そべりながら軽蔑したような視線を俺に寄越し、言った。
「究極のムッツリスケベって感じだな。童貞だから仕方ないだろうけど」
「し、失礼なことをっ……」
「仕事でエッチなことに慣れれば、そのうち鼻血も出なくなるよ。それにしても良かったよね。仕事での撮影なら心の準備する時間もあるし、一応ストーリーとかの流れもあるから、自然と本番に移れそう」
 獅琉が俺の頭を撫でて笑う。
 その理屈が本当に合っているのかはまだ分からないけれど、ともあれ少しだけ安心した。AVモデルが鼻血出しながら撮影なんて、それこそマニアックな層にしか受けないだろう。

「……ありがとうございました。俺のこと鍛えてくれようとして、こんなことまで……」
「いいよ別に。最初はそのつもりだったけど、途中から自分が気持ち良くなるの優先してたし」
「でも獅琉さん、凄く綺麗でした」
「ほんと? やっぱ本能のまま行動してる時の人間って、良くも悪くも魅力的なのかもね」
「潤歩さんはノックダウンしてますけど」
 見れば潤歩はベッドの上で大いびきをかいていた。射精すると眠くなるのは俺にもよく分かる。疲れていた時なら尚更だ。
「俺は全然眠くないよ。むしろこれから騒ぎたいって感じ。撮影の後もそうなんだけど、何か射精すると妙にテンション上がっちゃうんだよね」
「へえ。珍しいですね」
「続けて何回でもできるし。デビューしたての頃にメインで出たブイでさ、一日の撮影でニ十回くらいイッたことあるよ。もちろん休憩は挟んでたけど」
「ええぇっ! に、ニ十回……。凄い痛くなりそう」
「潤歩とか竜介からは『性欲魔獣』とか『テクノブレイカー予備軍』とか言われるけど、俺昔からそうなんだよね。多淫症ってわけでもないし自分でも何故か分からないんだけど、スイッチ入ると幾らでもできちゃうんだ」

 照れ臭そうに笑って、獅琉が言った。
「ほんと、AVやるために産まれたのかもね」
 その笑顔は少し、ほんの少しだけ、……寂しそうだった。