狼も犬も蚊帳の外! -5-

「てめえら、この矢代会中堅幹部頭役・矢代家五代目頭首夜霧様の懐刀である嵐雪を本気にさせやがったなァ……!」
「わー、怒った! やくざが怒った!」
「悔しかったら捕まえてみろー!」
「上等だゴラアァッ!」
 地面を蹴った嵐雪が、猛然と子供達に襲いかかる。
「オラァッ、一匹! 二匹!」
「いいぞ、嵐雪!」
「流石っすよ兄貴!」
 若い衆の声援を背後に、次々と子供達を捕まえ一人ずつ抱え上げて行く嵐雪。子供達は宙を飛ぶ感覚にきゃあきゃあと歓声をあげている。
「子供達は楽しそうだけど、……あんまり父兄には見せたくない光景だね」
 笑顔を引き攣らせる朱月の横で、夜霧が静かに笑った。
「後で仕置きが必要だな」

「うう、捕まったー……」
「見事な逃げっぷりでしたよ。もう少し大きくなったらまたお相手願います」
 夕凪は計画通り捕まえた年長の男児を肩に担ぎ、その健闘ぶりを讃えた。
 そうして残りの子供達も順調に捕まえて抱き上げ、いよいよあと一人となった時。


「最終戦だな、夕凪」
 見れば嵐雪の陣地にいる子供も一人だけとなっている。残り時間は一分。体力もお互い充分に残されている。ここまで来たら、どちらか先に仕掛けた方が勝つ。
「………」
 ごくりと息を飲んで見守る朱月や矢代会の面々、そして父兄達。


「っ……」
 夕凪と嵐雪はほぼ同時に駆け出した。
 夕凪の勢いにぽかんとしている少女。嵐雪の気迫に気圧されたのか、その場を動かない少年。見た目には分からないが、ほんの少しだけ夕凪の方が早かった。
「俺の勝ちだ、嵐雪っ……」
 少女を抱き上げても、そこから陣地の外へ出さなければならない。夕凪が嵐雪の陣地に顔を向けると、意外にも嵐雪は少年相手に苦戦している様子だった。楽しげに逃げ回る年長の少年は、小学校に上がったら笹上のこどもサッカーチームに所属予定の、スポーツマンの卵なのだ。
「野郎、止まれコラァッ!」
 嵐雪が五歳児に言い放った台詞は、かつて県外から来た別の組を追い回した時のそれと同じものだった。夕凪もよく覚えている。その時は酔っ払った彼らが宮若神社で暴れたため、徹底的にやれと頭首からお達しが出たのだ。
「ぎゃははは! こええー!」
 しかしその時の輩共は青褪めた顔で逃げていたが、この少年は心底鬼ごっこを楽しんでいるらしい。


「あっ、ちょっと待て、おい!」
 興奮し過ぎて陣地を出てしまった少年が、背後に迫る嵐雪を振り返りながら尚も走り続ける。──その先には、この日のために園児達が総出で作った紫狼様の巨大なモニュメントがあった。