第6話 選ばれた堕天使 -2-

 おめでとう、君は素晴らしい、選ばれし人間、誇りに思っていいよと、やたら陳腐な言葉で俺を褒めちぎった後で、今後の流れについての説明が始まった。
 最終候補になればあらかた「出品」されることは決定だが、その前に、柳田グループ副会長であり今回のオークションの主催者である柳田悠吾氏からの入念な最終チェックが入るらしい。


「要は、この男と寝ろってことでしょ」
「冷めた言い方ですなぁ」
 そうして見事OKサインを貰えれば、晴れて自分を売り出す権利を得られるということだ。……いつの間にか、「選ばれし」側だったはずのこっちが「選ばれたい」側にされている。

「別にいいよ。気に入られなかったらそんなの出る気ないし、そいつが俺を気に入って頼み込んで来るなら、出てやってもいいし」
「流石リオだよ、副会長にそんな強気でいられる子、見たことないよ」
「そんで、いつチェックされんの」
「今日の夕方、七時って言ってたかな」
「急〜」
「だよね。でもいつも急なんだってさ、副会長は」

 別にどうでも良い。
 売り専の仕事だけでも弟の受験費用や学費くらいは稼げるし、その分さえ賄えれば自分のために使う金なんて日常生活程度の額で良いのだから。
 だけど、金そのものの話ではない部分に俺の心は揺らいでいた。
 ──上級クソ野郎のツラを拝んでやりたい。


 金で男とのセックスを買う底辺クソ野郎は嫌というほど目にしてきた。それよりもっと歪んだ、金で男そのものを買う奴らはどんな人間なんだろうという、単純な好奇心が働いた。
 一体どんな人生を送れば、そんな思考に行き着くのだろうか。どれほど暇を持て余し、どれほど悪趣味な遊びに傾倒すれば男を金で競り落とそうなんて思い付くのだろうか。
 そしてそんな奴らの頂点に立っている男とは、一体どれほどのクソ野郎なんだろうか。

「………」
「緊張しなくていい、座ってワインでもどうだ?」
 安普請なホテルしか行ったことがない俺にとって、そこは見るもの全てが妖しく輝いていた。
 大理石の床、本革のソファ、ダイヤが散りばめられたシャンデリア、上質なシルクが光るキングサイズのベッド。


 そしてその部屋の中央に立つ男、柳田悠吾。
 思っていたより若くて驚いた。背は高く体付きも逞しく、顔立ちも良い。モデルにでもなればいいのに、そうしないのはきっと「今」の自分に満足しているからだ。

「リオです。今日はよろしくお願いします」
 一応はそう挨拶をして、俺はさっさと服を脱いだ。始まりが早ければ終わりも早い。こんなもの早く終わらせるに限る。