第6話 選ばれた堕天使

 人生、何がどうなるかなんて誰にも分からない。
 まさか俺にこんな話が来るなんて思ってもいなかった。昨日までの俺はただ「可愛い弟を大学に行かせたくて働いてるんです〜エヘヘ」と客に媚を売っていただけなのに。

 嫌いじゃないけど、俺にとってセックスは金を稼ぐ手段でしかない。今しか売れない体を限界まで使って金に変えると決めたあの日、母さんの愛人が家中の金と預金通帳を持って夜逃げした。
 弟は俺と違って真面目で優しい奴だった。碌でもない大人の馬鹿騒ぎが続く部屋の隣で、いつも懸命に勉強していた。早くこの家を抜け出したくて、バイトだって頑張っていた。遊びたい盛りの高校生の身でありながら、唯一の自由時間は寝ている時だけ。兄である俺は何もしてやることができなかった。


 世の中、努力家で優しい奴が損をするようになっている。弟のバイト代まで持っていかれたと知った時、そしてそれを含めた家中の金が、ある一人のキャバ嬢に注ぎ込まれたと知った時──俺は、「搾取する側」に回ると決意した。
 絶対に弟を大学へ行かせる。部屋も用意して、獣医になりたいという夢も叶えさせる。クソ野郎に持っていかれた金を、同類のクソ野郎共から取り返して何が悪い。

 俺が東京BMCナンバーワンの「リオ」であり続けること。
 それはこの世に生きる全てのクソ野郎共への復讐だった。

 *

「おめでとうリオ君。柳田副会長から直々に選ばれたんだよ、流石だね」
「悪趣味〜。一晩、金持ち爺さんのオモチャになれってことでしょ? 第一さあ、爺さん勃起すんの? 興奮しすぎてポックリ逝ったら俺のせいになるわけ?」
「爺さんとは限らないよ。副会長みたいな若い御曹司だっているし、どこぞの企業の渋いイケオジ社長だっているだろうよ」
 スタッフルームで店長から説明された時は、正直言って嫌悪感しかなかった。
 若い男達を競りにかけて、その一晩を独占する権利を入手する──いかにも上級クソ野郎が考えそうなことだ。

「もしもそこでリオが見初められたら、囲って貰うこともできるしさ。売り専での売上げなんて比じゃないくらい稼げるよ」
「売り専はいつでも辞めれるけど、愛人は自分のタイミングで辞めれないじゃん」
「うーん、リオ乗り気じゃない? お断りしとこうか?」
「やるよ、稼げるなら。……それで? いつ開催されるのさ」
 店長が何枚かの書類を机に出して言った。

「厳密に言うと、リオは書類とプロフ写真が通っただけで、まだ決定した訳じゃないんだ」
「勝手に個人情報流さないでくれる?」
「ごめんごめん、柳田グループトップからのお達しだったから、つい張り切っちゃってさ。そこは本当にごめん」
 別にいいけど、と呟けば、店長が「最終候補に残った君へ」というふざけたタイトルの書類を俺に渡してきた。