第4話 毒

 ソファの端に座って短くなった煙草を処理すると、横からスタッフがドリンクのメニューを差し出してきた。
「煌夜さんですね。社長から聞いてます。サービスしますから、好きなもの頼んで下さいね」
 金髪のスタッフから受け取ったメニューを膝に置いて新しい煙草を咥えると、横からライターの火が差し出された。
 スタッフかと思って顔を向ける。が、そこにいたのは知らない男だった。理人と同い年くらいだろうか。無造作にセットされた肩までの長髪が醸し出す野性的な雰囲気とは反対に、控えめな微笑を浮かべている。


「どうも」
 軽く頭を下げて煙草の先端を近付ける。オレンジの小さな光が灯され、俺はそのまま深くそれを吸いこんだ。
「見ない顔だな。ここ来るの初めてかい」
「ええ、今日が初めてです」
 話しかけられて戸惑ったけど、ただ黙っていつ来るのか分からない理人を待つのもしんどいと思っていたから、時間が潰せるのは少し有り難かった。

「俺、悠吾ユウゴ。きみは?」
「……煌夜」
「煌夜ちゃんか、良い名前だな」
「………」
 その呼び方は理人しかしないのに。何となく引っ掛かって、俺は自然を装いながら男の内面を覗き見ようとした。が……

「煌夜は齢幾つだ?」
「十九です」
「そうか……駄目じゃん、煙草も酒も。一人で来てるのか?」
「いえ、今は連れが席を外してて……」
「俺も同じ。俺の連れとはこの後外で合流するんだけど、時間まで暇だから上の階で酒でも飲もうかなって」
「VIPフロアで?」
「そうそう、俺はここのちょっとした常連みたいなモンだからさ。煌夜の連れも上にいるのか?」
 引っ切り無しに質問されて、なかなか意識が集中できない。まるでわざと俺に心を読ませないようにしているみたいだ。

「いえ、分かりません。連れっていうか、ここで働いてる奴だから……」
「そうなのか。じゃあ俺と一緒に上行くか? 俺なら顔パスで通れる」
「遠慮しときます。いつ戻って来るか分からないからうろうろできないし」
「そりゃ残念だ。ここの社長にも紹介してやろうと思ったのに」
「え?」
 今確かに「社長」と言った。この男は理人のことを知っているんだろうか。

 俺は立ち上がった悠吾の背中に思わず声をかけていた。
「俺も行きます」
「ん。行こうか」
 立つと俺より遥かに背が高い。体も鍛えているのか、洒落たスーツの上からでも偉くがっしりしているのが分かる。未だ心は読めていないが、この若さでVIPフロアに顔パスで入れるというのだから只者でないことだけは確かだ。