第2話 リオ -7-

 俺とリオの間で軽く散る火花を察知した理人が、間を割るようにして口を挟んだ。
「で、煌夜。リオに会って何を聞くつもりでいたんだ? ピシピシ進めねえと、六十分しか取ってないんだからな」
「変に隠さず素直に話してもらいたいだけです。リオが長年培った勘も含めて、健太郎さんについて知っていること全てを」
「話すって言ってもさぁ、客のことは簡単に話せないよ。この店は一般の人より業界関係の人とかが客として来る確率が多いんだから、守秘義務? ってのがあるんだよ。どこの売り専でも同じだと思うけど」
「大丈夫。万が一リオの身に厄介なことが起きそうになったら、その時は俺達が必ず君を守る」
「………」


 リオの頬は薄らと赤みを帯びていた。俺が口にした損得勘定無しの「守る」という一言に、男慣れしすぎて擦り切れていた心を揺らがされてしまったのだろう。
 いくらリオが男心を読む天才でも、俺は人間の心をそのまま読むことができる。悪いが心理戦で負ける気は毛頭ない。


「……わ、分かった。何でも話すよ、何でも聞いて」
「まずは健太郎さんが自分の会社や婚約者について何を言っていたか、教えてくれ」
 ソファの上であぐらをかいたリオが、腕組みをして呻った。
「うー。確か不景気だから、絶頂期よりかはだいぶ売上が落ち込んでるって言ってたかな……。俺、そういう話疎いから適当に聞き流してたんだよね。それから婚約者については、まぁ当たり障りないことを言ってたかな。『美人で賢くて大人しい、若いのに料理上手で典型的な大和撫子だ』って。その人とのセックスも満足してるって。冗談ぽく『じゃあなんで僕の所に来るの?』って聞いたら、『分からないんだ』って言ってた」
 そこで区切りをつけたリオに、俺も理人も黙って話の先を促した。


「自分でもどうして通ってるのか分かんないらしいよ。初めの一、二回は確かに自分の意思で来店したけど、その後は気付いたら足が向かってるんだって。俺そういうの言われ慣れてるから、本気で俺に惚れてるくせに自分の中で言い訳してるんだな、って思った。……だけど健太郎さん、他のしつこい客と違って深く踏み込んで来ないんだよね。プレイしたら終わり、って感じで俺のこと全く詮索してこないし。通ってはいるけど俺に執着してる訳じゃないと思う」
「プレイ内容は普通か? 何か変な性癖があるとかよ……その、例えばの話だけど……」
「全然普通。SM趣味もないみたいだし、淡々とヤッて終わりって感じで全くのノーマルだよ。まぁ、セックス系ドラッグの類は店で禁止されてるからかもしれないけど。それでも道具一つ使わないんだよね。正常位もバックもどっちもやるし」
「分からねえな。大和撫子の婚約者がいて満足してる上に、特殊な性癖も無い。リオに心底惚れてる訳でもない。それなら普通に考えて、風俗なんて通う理由が無いだろう」
 首を捻る理人に同意してリオが頷き、二人は同時に俺を見た。


「ましてや売り専だぜ、ますます訳が分からねえ。煌夜、何か見えるか?」
 俺は目を閉じたまま沈黙する。
 リオの証言に嘘はない。とすれば、本当に健太郎は自分でもよく分からないままリオの元へ通っているのだろうか。会社の売上が落ちているとはいえ、それでも健太郎の将来は安定している。わざわざ破滅の道を選ぶ理由が、彼には無い。
 健太郎自身には無いが、健太郎の周りに居る「誰か」にはある。恐らくは彼を怨んでいるであろう「誰か」。
それが健太郎に憑いていたモノの正体だ。