第2話 リオ

 その日の夕刻前、俺と理人は早速S市K区にある一件の風俗店へ出向いた。
 完全秘密性と謳っていた通り、店舗は目立たない路地裏雑居ビルの中だ。宮内健太郎が寄越した住所はここで間違いない。だが──


「ええと、『個室・出張、専用のホテルあり。幅広いジャンルのボーイが揃っています』……だってよ、煌夜。……どういうことだ?」
「そういうことなんでしょ。健太郎さんが通ってるのは風俗は風俗でも、売り専だったんですね」
「……は、入るのか? マジで?」
「理人、男相手でもいけるっていつも豪語してるじゃないですか。ていうか俺に卑猥なこと言いながらキスマーク付けてきた時点で男は無理なんて言わせませんよ」
「別に男に抵抗ある訳じゃねえけど、こういう店に入るところを誰かに見られたら……」
「どっちにしろ行かなきゃ仕事になりません。……ほら、早く。躊躇してたら余計人目に付きますって」
 渋る理人の背中を押しながら、俺は健太郎に憑いている者が女でなかったという、自分の勘が外れたことに軽い落胆を覚えた。
 子供の頃と比べて最近は勘が鈍くなってきている気もする。大人になるにつれて子供特有の霊感が無くなるなんていう話も聞くが、それでもまだ「この仕事」をするには充分な力を持っている俺だったから、理人にはそのことを伏せていた。


「いらっしゃいませ、当店の利用は初めてでしょうか」
 黒服の案内係が理人の姿を見て満面の笑みを浮かべている。いかにも金を落としそうな客が来たとでも思っているらしい。
「こちらのファイルからお好みのボーイを選んで頂くことができます。お連れ様も、どうぞ」
 フロントにあるソファに座らされた俺達は、黒服に渡されたファイルを開いて健太郎の言っていた「リオ」の名前を探した。厚いファイルには様々なボーイのプロフィールが写真付きで載っている。この中から一人を探すとなると、本来の目的で来店する客も結構苦労しそうだ。


「どう、煌夜。いいのいた? 初めて来たけど、なかなか良い男が揃ってるモンなんだな」
「本気で選ばないで下さい」
「馬鹿、ちゃんと探してるって。──あ、お兄さん。この亮介ってどんな感じの子?」
「亮介は準新人ですので人気が高いですね。可愛い系タイプの子ですがタチウケ両方OKですので、当店お勧めのボーイです」
「へえ。じゃあ、こっちの彰は」
「彰は大人しい感じの子ですがサービスも良くて、最近リピーターがついてきた頑張り屋です」
 仕事そっちのけで好みのボーイに興味津々の理人に、俺は心の中で溜息をついた。自分のタイプであれば誰とでも寝られる理人の性癖は知っていたけれど、こうもあからさまに見せつけられると俺としては遣る瀬無くなる。