第1話 リヒトとコウヤ -6-

 ──俺の能力の一つである、他人の「念」を読み取る力。いや、読み取るというよりは、一方的に押し付けられるといった表現の方が近い。目に見えない人間の念とは凄まじいもので、そんな念を持った相手と長時間接していると俺はもろにその影響を受けてしまう。
 殺気、敵意、悪意、嫉妬、憎悪。それだけじゃない。捻じ曲がった愛情や、人生に対する苦しみ、悲しみ。思いが強ければ強いほど、それに比例して俺の体に「異変」が起こる。


 大抵まずは動悸が始まって呼吸が早まり、体が熱くなり、頭の中が霞んで、意識が蕩ける。その姿はまるで発情しているように見えるかもしれない。だから理人は俺の火照りを冷まそうと、そういう時にいつも「協力」してくれるのだが。
「だってそうなった時の煌夜って、放っておいたら死にそうなくらい具合悪そうじゃねえかよ。自分で抜くことも出来ねえんだから、俺が手伝って何が悪い」
「別に悪くないですよ。俺としても助かってますから」


 卑猥な話でも何でもなく、男の精子にはちょっとした魔除けのような力がある。精液とは命の源であり、生命エネルギーの塊であり、生きて存在している証でもあるからだ。射精をすれば俺の場合、大抵の邪気は振り払える。問題なのは、それを俺一人で行なえないということで……。


「何かもう慣れたけど、煌夜もたまには風俗とか行った方がいいぜ。俺の手ばっかじゃ飽きるだろ」
「俺のそれは性欲からくるものじゃないですよ」
 初めは面食らっていた理人も、今では淡々と俺の処理に付き合ってくれている。淡々としすぎて飽きがきたのは理人の方だった。……だから昨夜は俺のそれを握りながら、首筋に歯を立ててきたのだ。
「とは言えさぁ、……」
「理人が嫌なら、他に頼むんでいいですけど」
「別に嫌じゃねえけど。お前が寝た後で、それこそ一人で処理する俺の空しさも分かってくれよな」
 性欲が満たされれば男も女も関係ない理人が俺にそれ以上手を出してこないのは、単純に俺のことを理解してくれているからだ。意識朦朧の俺を勢いだけで抱くのは流石に人としてまずいと思っているらしく、この五年間、どんなに身体を弄られてもいわゆる本番行為は一切無かった。出会った時の俺が子供だったから、今も子供扱いされているだけなのかもしれないが。


「………」
 そんなことを考えていると、背後からうなじに生ぬるい吐息が触れた。耳元で微かに声がする。何を言っているかは分からないが、例の桜の女が不吉なことを囁いているのは確かだ。首筋の産毛が逆立っている。