バトル オブ ライブ 王者奪還戦 -2-

 昨日は一日最高のデートを楽しんで、今日の出勤は朝からご機嫌マックスの俺。画像の撮影でもカメラマンさんに「今日はノッてるね~」と古い言い方で褒められ、ファミレスでの昼飯もアプリのクーポンで少しだけ安くなり更にラッキーだ。


 うきうき気分のまま迎えた、翌月第一週目の金曜日。俺と雀夜の第二回ライブ配信の日。
「桃陽。今日のライブの内容は決まってるんだろ、どういうのやるんだ?」
 休憩から戻った時に遊隆に訊かれたが、俺は首をひねって口を尖らせることしかできない。何故なら、今回の内容は俺も知らされていないからだ。
「何か雀夜が松岡さんと色々話し合ってたみたいだけど、全部俺に秘密にしてるんだよ。雀夜のことだから変なことはしないと思うけど、ぶっつけ本番の生放送ってちょっと怖いよね」
「へえ、じゃあ楽しみでもあるな。俺も家で見とくよ」
「うん。良かったら遊隆もコメント書いてよ。目に入ったら絶対読むからさ」
 おう、と手を振って遊隆が事務所を出て行く。その後ろ姿に俺も手を振り、取り敢えずライブの時間までの暇潰しとして休憩室へ向かうことにした。
「桃陽。ライブの流れを書いたメモを渡しておこう。目を通しておいてくれ」
「あ、一応教えてくれるんですね。ありがとうございます」
 松岡さんから渡されたレポート用紙をテーブルに置き、身を乗り出してじっくりと読んでみる。そんなに大した内容ではなく、前回のライブとあまり変わりはない。確かにこれなら俺が内容を知らなくても差し障りはないのかもしれなかった。


 ――それじゃあどうして、雀夜は松岡さんと話してたんだろう。
 もしかしたらライブについてのことを話していた訳ではなかったのかも。やっぱり雀夜にとってはライブなんて気にするようなことなのではないのかも……。


「うー」
 テーブルに身を伏せて考え込んでいるうちに眠ってしまったらしい。肩を揺すられて頭を上げた時、そこに雀夜がいて驚いた。
「さ、雀夜。……おはよう、どうしたの」
「寝ぼけてんじゃねえぞ。仕事だろ、早く来い」
「……あ、そっか。ライブ……」
 口元の涎を拭ってレポート用紙を取り、雀夜に続いて休憩室を出る。ライブのテンションじゃないけれど、仕事は仕事だ。ちゃんとやらないと。
 動画撮影用の部屋に入ると既に準備は整っていて、俺も手櫛で髪を整えてから椅子に座った。コメントを拾って読み上げ、それに答える。第二回雑談ライブだ。


「開始まであと十五分くらいです。準備お願いします」
「はーい」
 雀夜が腕捲りをし、テーブルに頬杖をつく。白いTシャツに金のネックレス――そんなシンプルな服装でもこれだけハンサムなんて、ずるい。
 かくいう俺も今日の服はスタイリストさんに選んでもらったものではなく、こないだのデートで雀夜が買ってくれたシャツとパーカだ。見ている人達には秘密だけど、雀夜が選んで買ってくれたこの服は俺の勝負服。それも含めて動画に永久保存されるのは少し嬉しかった。
「雀夜、今日のライブも前と同じでしょ? 俺が進めちゃっていいの?」
「適当にやってくれ。俺も適当に入る」
「そんな感じでいいのかなぁ。……雀夜、次のは俺に任せろって言ったのに。結局途中で飽きたんだろ」
「………」
「でもあの時は康政に怒ってくれたんだもんね。嬉しかったよ」
「………」
「頑張ろうね。今日も出来るだけ俺、雀夜の良いところを引き出すように頑張るから」
「……ああ」
 全く、無口な奴だ。まぁそこが雀夜の魅力でもあるけれど。


「それじゃあ、始めます。カメラ回ってます、五秒前です」
「……こんばんは、東京ブレインの桃陽です! 今日もライブ集まってくれてありがとうございます!」
「雀夜だ」
「そう、この人は雀夜。俺の相方で、うちのナンバーワンモデル。みんな生の雀夜を見るために来てくれてるんだよ、良かったね」
「………」
 コメントは今回も猛スピードで流れて行く。いや、前回よりも多いかもしれない。早過ぎて全然目に止まらない。
「すっごい数のコメントありがとうございます! えっと今一瞬目に入ったのが、『雀夜のシャツのブランド知りたい!』っていうやつ。そのTシャツってあれだよね、エクスチェンジ」
「ああ」
 もう、全然喋ってくれない。分かってはいたけど、この調子だと俺だけがどんどんテンパッてしまう。


「雀夜は何でも似合うからいいよね、素体が良いからさぁ」
「……お前のそれも、俺と同じブランドだろ。だから選んで買ってやった」
「っ……」
 突然喋ったと思ったらこれだ。黙っておこうと思ったのに、これじゃあ「雀夜が桃陽にプレゼントした」という話がファンの中でエスカレートして暴走しかねない。
『雀夜が買ってあげたんだ、優しい!』『流石にセンスいいよなぁ』『いいね!』
 俺の心配をよそに、意外にも好意的なコメントが続いている。中には『いいなー、桃陽に嫉妬!』というコメントもあったけれど、顔文字付きで微笑ましいものだった。


「へ、へへ……そうなんです。たまには相方にくれてやるってことで、珍しく雀夜がね、買ってくれたんですよ。ガキっぽいから似合うだろって」
「前に休みをもらってな」
「そうそう、二人でね、珍しく休みを……」
「一日コイツとデートしてきた」
「そうそう、デート……えぇぇっ!」
 さらっと雀夜に暴露され、思わず俺は座ったまま飛び上がってしまった。
 バカ雀夜。そんなことバラしたら……!


「買い物して飯食って、ゲーセン行って、帰りに車の中でチンポ咥えさせて、そのままセックスしたな」
「さささ、雀夜っ。何言ってんのちょっと……!」
 体中の毛穴という毛穴からどっと汗が噴き出てきて、俺はカメラの前で両手を振った。録画のランプは間違いなく点いている。
「い、い、今の無しですっ! やり直しましょう!」
「やり直したところで、もう向こう側には伝わってる」
「そ、そうだけど……!」
 雀夜が頬杖をついたままつまらなそうにカメラを見て、言った。


「その時の様子を隠し撮りしてたんだ。画面の右側に出てるか?」
「えっ? ど、どういうこと!」
 慌ててパソコンを確認すると、本当だ――あの日のデートの様子がライブ画面に同時に出ている。服屋で喋っているところも、並んで歩いているところも……
 このプロっぽいカメラワークは間違いない、東京ブレインのカメラマンだ。まさかあの時のデートを隠し撮りされていたなんて。
「ええ、ちょっとどういうこと? 本当に聞いてないんだけど!」
「今日のライブはドッキリ企画だな。桃陽はマジで知らされていない」
 唇の端を弛めて嗤う雀夜。まんまと騙された俺の顔は真っ赤だ。