バトル オブ ライブ 開幕~王者防衛戦 -4-

 俺の熱い説得は少しも響いていなかったのに、雀夜が突然やる気を出した──俺の股間が揉まれたという、何とも情けない理由をキッカケにして。


 それ以来雀夜は動画撮影が終わった後も幸城さんと何やら話し合いをするようになり、俺はマンションの部屋で一人飯を食うことが多くなった。俺達のライブは月一回と告知しているから次までにだいぶ日にちはあるが、康政と南雲は定期的にライブをやって順調にファンを増やし続けているらしい。見てないけれど、遊隆の話によればかなりエロいそうだ。


 ライブで人が集まるのに比例して、南雲達の動画の売上げも確実に伸び始めていた。まだ俺と雀夜の総ダウンロード数には遠く及ばないものの、この伸びがずっと続くとなるとうかうかもしていられない。幸城さんはライブを経由して動画の売上げを伸ばすこと、これを狙っていたのだ。だから結果的には良い方向へ進んでいるとも言える。


 が、しかし。
『ちょうど世代交代なんじゃない?桃陽はまだギリ新人だけど、雀夜はそろそろメインモデルって歳じゃないだろ』
『確かに。でも雀夜の代わりになれる子って、結局いないじゃない。遊隆だとまだ少し子供っぽいし、康政は雀夜と真反対のキャラだもんね』
『えー、雀夜が引退するなら会員やめる』
『なに、雀夜引退すんの? 売り専来いや、どんなもんか買ってやるから』
『雀夜は引退しませんよ。勝手な嘘は書かないで下さい』
『来るとしてもお前なんかの給料じゃ1セットも払えない高級店だから』
『売り専に高級店とかwアホ』
 俺のイライラは募るばかりだ。根も葉もない噂がネットで飛び交い、ファン同士で喧嘩まで始まる始末。普段はこういう書き込みは見ないけれど、今だけは反応が気になって仕方ない。


『一番の被害者は桃陽だろ。もっと年齢の近いモデルと組ませればいいのに』
『ていうか桃陽と組んだから雀夜の価値が下がったんですけど』
『遊隆信者が来るからその話は禁止です』
 知らなかっただけで、色々思われていたんだなと実感する。俺達はカメラの前でセックスをして、見る側のオナニーの手伝いをしているだけだと思っていた。極端に言えば、抜けるか抜けないかでしか評価されないと思っていた。
 だけど割と、というかだいぶ、セックス以外の部分でも評価の対象になっているらしい。見る側は動画の中の俺達しか知らないから、そこから少ない情報を得てモデルの性格や心理状態を想像するしかないのだ。皆に雀夜の良さを知って貰いたくても、伝わり方、捉え方が同じとは限らない。
「難しいモンなんだな……」
 誰にも見せていない普段の俺達が、皆にも見れるといいのに。

「なあ。雀夜はさぁ、仕事に対して超真面目なのに、どうしてもっと好感度上げようとしないんだ?」
「意味が分からねえんだけど」
 あれから二週間後の金曜日。今日は俺も雀夜も仕事が休みで、珍しく雀夜が買い物に出掛けると言うから俺もそれに付いて行くことにした。久しぶりのデートにうきうきしたけれど、雀夜に出された条件は荷物持ちだ。
「例えばウチのサイト上でブログ書いてるモデルもいるし、SNSでファンと絡んでる奴もいるし、幸城さんだってそういうのは積極的にやっていい、って言ってるじゃん」
「お前もやってねえだろ」
「俺はほら、……そんなネタもないし。写真だって下手に撮れないし」
 アップした写真の背景が全部雀夜の部屋だとバレたら、それこそ炎上ってやつだ。文才もなければ嘘も下手だし、お喋りでうっかり者で、面白いことも考え付かない。


 ショッピングモールに向かう雀夜の車の中、俺は助手席のシートに深くもたれて溜息をついた。
「まあでも、ブログだのSNSだのは雀夜らしくないか。雀夜は自分が納得する仕事をしたいだけだもんな」
「分かってんじゃねえか。休みの日くらい考え込むなよ、らしくねえ」
 ここ最近俺が仕事の話ばかりするからか、雀夜は少し心配しているらしい。ハンドルから離した右腕を伸ばし、俺の頭を強めに撫でてくれた。
「今日は仕事の話する気分じゃねえんだ。悪いな」
「……分かった、ごめん。今日はこの話するの止めるよ」
 そうなのだ。今日は雀夜と買い物デート、仕事の話なんてしてる場合じゃないし、落ち込んでいる時間が勿体ない。
 雀夜のデカい車、特別な助手席。ハンドルを握る横顔に、アクセルを踏み込む長い脚。俺は今更のように顔を赤くさせ、こんなハンサム兄貴と付き合えるなんて運が良すぎると改めて実感した。

 それから俺達は近場の大型ショッピングモールへ到着した訳だけど。
「まあまあ似合ってんじゃねえの、ガキっぽくてよ」
「悪かったな!」
 雀夜は服屋に入るたび、俺が好きそうな服を見つけてはからかいながら勧めてくれた。俺は雀夜自身の買い物にくっついて来ただけなのに、さっきから俺の物を選んでばかりだ。珍しい。今日は機嫌が良いのだろうか。


「腹減ったか。何が食いたい」
 買った服とブーツの入った紙袋も雀夜が持ってくれて、その上、昼飯のメニューも俺に選ばせてくれた。ハンバーグよりステーキ、パスタよりもラーメン派の雀夜がランチタイムのデザート食べ放題を売りにしたレストランに付き合ってくれるなんて。
「今日の雀夜、何か変」
「何がだ」
「何かいつもより優しい」
「優しい分にはいいだろうが」
 それはそうなんだけど、少しだけ調子が狂ってしまう。顔はいつもの仏頂面で、声のトーンもテンションも普段通り低い。
「雀夜の買い物も付き合うよ。何が欲しいんだっけ?」
「……気が変わった。夕方までゲームセンターでも行くか」
「えっ?」
 本当に変だ。今日の雀夜は絶対に変だ。