バトル オブ ライブ 開幕~王者防衛戦

 深夜のファミレス──俺と雀夜、珍しく二人セットで幸城さんに呼び出された。いつもは動画の打ち合わせも雀夜と幸城さんが勝手に進めて、俺は後から知らされるだけだったのに。
「新しいサービスで、考えていることがあってな」
 俺達の社長、そして動画の撮影監督である松岡幸城さん。いつも無表情で色白で、かと言って陰気な感じはせず、どこか只者ではないオーラを持っている雀夜より二つ年上の綺麗なお兄さんだ。
 しかし仕事に関する打ち合わせがこんな遅い時間から始まるのは稀なことだった。今日は色々と立て込んでいて忙しかったのもあるけれど、別に打ち合わせくらい明日でも良さそうなのに。
 つまりそれほど緊急、もしくは一刻も早く俺達に伝えたくて堪らなかったのだろう。


 事務所ビルから程近い場所にあるファミレスは昼休憩の時によく世話になっているけれど、この時間、客は俺達以外に殆どいない。秘密の話をするにはもってこいの場所だ。
「お前達、生放送のライブ配信に出られるか」
「えっ?」

 東京ブレイン・コミュニケーションズ。幸城さんが二十歳の時に立ち上げた、ゲイ向けアダルト動画サイト。当時はスマホやタブレットが今より普及していなかったからエロ動画よりもアダルトビデオ、DVDが主流だった。それでも家族の目や世間体などの問題からビデオの購入が出来ない層にはウケたらしい。パソコンからいつでも動画が見られるという点でネットの掲示板からじわじわ口コミが広がり、小ささよりも画面のデカさが売りのガラケーが出始めた頃から爆発的に会員が増えた。


 スマホやタブレットが当たり前という時代の今、会員数は当初の予想を遥かに超えて、エロ動画サイトという分野では何年も上位をキープしている。もちろん、女の子が出ているそれとは売上や会員数は比べ物にならないけれど。
 が、最近ではライバルサイトが増えてきたのも事実だ。その多くは市場に出ているAVからエロいシーンを抜き出して勝手にアップロードしているサイトだけれど、ウチの真似をしてモデルを雇い、いわゆる「アイドル売り」している所も少なくはない。


 東京ブレインの最大の売りはモデルの多さと動画数の多さ、そして何よりモデル同士を「カップル」として出演させるシリーズ物に特化しているということだ。
 見る側はエロシーンにも自然な演技を求めている。本物のゲイカップルが絡んでいるようなリアルさを好んでいる。最近では女性の会員数も多く、有難いことに俺もよくお姉さん達からメールを貰っていた。その殆どのメールには、俺では考え付かないような雀夜との物凄くエロい妄想(今後の希望、または提案)が書いてあるのだ。


 もちろんカップル売りならではの危うさもある。色んな事情で片方が別のモデルと組むことになった時とかがそれだ。雀夜もそうだった。俺と組む前は遊隆と組んでいて、その時のファンは遊隆と全く違うタイプの俺が雀夜と組むことになり、相当荒れていたらしい。「遊隆の雀夜を寝取るな」とか言われたし、「雀夜が嫌々やってる」とか、「ビッチ失せろ」とか、当初は散々な感想を頂いた。それで逆にやる気が出たけれど。
 生粋の雀夜ファンは絡む相手が誰でも変わらず雀夜を応援しているし、俺が本気で雀夜に惚れているお陰か「良い相方が出来て安心した」と言ってくれる人もいる。それに、俺単体のファンだって雀夜には及ばないけど大勢いるのだ。

「ライブって、何するんですか?」
 コーラのストローを咥えて問うと、幸城さんがテーブルに書類を滑らせながら説明した。
「基本的にはリアルタイムでのファンとの交流だ。それから、お前達のプライベートな掛け合いを見せる。動画撮影の裏話をしてもいいし、質問やリクエストを貰ってそれに答えてもいい」
 書類の注意書きにはこんなことが書いてある。『リアルタイム故にモザイク処理が出来ないため、陰部の露出は禁止』。
「面白そう」
 目を輝かせて隣の雀夜を見るが、表情から察するに雀夜はあまり乗り気ではないようだ。
「面倒くせえ」
「月に一度、一時間ほどの予定なんだがな」
「生放送だと、こいつがポロッと何言うかわかんねえし」
「ある程度台本は作る。お前達にはインカムを付けて、答えなくて良い質問にはその都度指示する」
「………」
「やってみようよ、雀夜」
「当然、視聴数の多いモデル達には報酬も弾むぞ」
「やろうよ雀夜、取り敢えず一回だけでもさ」
 俺と幸城さんに詰め寄られる形で、雀夜が渋々承諾してくれた。……というより、幸城さんが雀夜にこの話を持ってきた時点で既に俺達の出演は決まっていたのだろう。
「第一回目の配信は来週末、土曜の午後九時からだ。やりたいことがあれば早めに教えておいてくれ」

 *

 ・雀夜と俺の馴れ初め披露
「クソつまんねえ、誰も興味ねえよ」
 ・雀夜と俺のゲーム配信
「ゲームなんかやったこともねえ、俺が興味ねえよ」
 ・ガチ脱衣麻雀大会
「俺に勝てると思ってんのか」
 ・一時間ずっとイチャイチャ
「絞め殺すぞ」
「あああもう、雀夜文句ばっか言ってねえで自分でも考えてよ!」
「お前がやりたくて引き受けたんだろ。お前が考えろ」
「考えたのに、全部却下じゃん」
 箇条書きにして沢山用意した俺の企画に、雀夜は全く興味がないらしい。本当は「雀夜の生着替え(全裸アリ)」とか「雀夜流前立腺マッサージ教室」とかやりたかったけれど、見せなくても却下されると分かる。
「雀夜は何がしたいのさ」
「喋るのはお前に任せて、俺は横で酒でも飲んでるってのはどうだ。飽きたら寝るしよ」
「いつもと同じじゃん!」

 *

 結局考えがまとまらず、俺は頼みの綱である親友を頼ることにした。
「遊隆もライブすんの?」
 雀夜の元相方である遊隆。彼も人気のモデルだから、幸城さんから話を受けていてもおかしくない。
「俺はやらねえよ。まだ新しい相方決まってねえし、一人でやっても意味無いからさ……」
 一本撮影を終えたばかりの遊隆は、バスローブ姿のまま事務所のソファに寝そべっていた。遊隆は今現在相方がいないのと体力自慢であることから、割とハードな内容の企画に回されているのだ。


「そうなの? 別に一人でもやったらいいのに」
「寂し過ぎるだろ。一時間も持たねえよ」
 まあ俺も、実際一人でやれと言われたら絶対に無理だ。アガってまともに喋れない。
「遊隆も大変だよね。相方決まるまで3Pとかオナニーとか。でもこないだのリーマン陵辱動画めちゃくちゃ良かったよ。遊隆、いっそのことウケ役に転向すればいいのに」
「馬鹿言え。今必死こいて新人発掘してんだからよ」
「俺よりエロそうな奴見つけるなよ。売上げ抜かされたくない」
「何だそれ。──あ、そういえばエロいで思い出したけど、康政やすまさ南雲なぐものカップルもライブするらしいぞ。休憩室にいるから聞いてみたらどうだ?」
「ほんと? 分かった聞いてみる、ありがとう」
 俺はソファから腰を上げて、事務所の隣にあるモデル用休憩室へ向かった。


 康政と南雲。この二人も相当人気のあるカップルだ。格闘技経験者で見惚れるようなガチムチ体型の康政に、俺と張れるくらいのビッチと呼ばれている南雲。撮影日が違うから交流はあまりないけれど、俺は勝手にこの二人を……というか南雲を、良い意味でライバル視していた。
 エロいこと大好き。得意技はバキュームフェラと騎乗位です!
 南雲のプロフィールにはそう書いてある。何度か動画も見たけれど、自分で言っているだけあってかなりエロかった。淫語もバンバン使うし喘ぎ声もデカいし、どんなプレイも喜んで引き受ける。ファンからは「サキュバス南雲」「エロ天使南雲」とか呼ばれている男だ。


「お疲れ様でーす……」
 休憩室に入ると、康政と南雲がテーブルを挟んで談笑していた。
「あっ、桃陽だ。お疲れ、おはよー」
 南雲がふにゃっとした笑顔を俺に向ける。この天然男たらしなスマイルは、わざとやっている訳ではないらしい。
「お疲れ、桃陽。お前も休憩か? お菓子あるぞ」
 比べてタチ役の康政は、爽やかで歯が真っ白で、筋肉隆々で男らしい。プレイの時はその肉体と体力を駆使して南雲とケダモノのように絡むのだ。見応えのある動画だと、俺でも思う。


「あのさ、康政達もライブやるって聞いたけど。参考までにどういうのやるのか教えてよ」
「あれ、桃陽と雀夜もやるの? 雀夜は引き受けないと思ったけど、意外だなぁ」
「意外だろ。だからこそ内容に悩んでてさ」
 南雲の横に座って溜息をつくと、南雲が何故か「よしよし」と頭を撫でてきた。
「残念だが、俺達もまだ具体的には決めてないんだよ。すまない、何の役にも立てず」
 頭を下げる康政。すると南雲がもう片方の手でその頭を撫でた。
「そ、そっか。それなら別にいいんだよ、お互い頑張って考えよう」
「うん、頑張ろうね桃陽」
「ファイトだぞ、桃陽!」
 エロいけど何か調子の狂うカップルだ。