ひとりの秘密、ふたりの事情 -2-

「……で、どう落とし前付ける気だ」
 数分後、パンツ一丁で床に正座させられた俺はベッドに腰掛ける雀夜を見上げて懇願した。
「ごめんなさい。……違法アップの動画見たのは謝るよ。でも俺、単純に昔の雀夜が気になって……。普段はモデルなのにちゃんと会員登録して、金払って見てるんだよ」
 黙ったままの雀夜が怖くて、更に続ける。
「今ウチのサイトに上がってる雀夜の動画と画像は全部コンプリートしてるけど、デビュー作って貴重じゃん。見たくなる気持ち分かるだろ」
「……俺が気に食わないのはそこじゃねえ」
「そ、そうなの?」
 目を瞬かせて雀夜を見つめる。相変わらず表情に乏しい顔だけど、怒っているのは明らかだ。


「てめえ、動画見ながら何て言った」
「え?」
「センズリこきながら俺を見て、何て言った」
「ええと、……『可愛い』って」
「ぶっ飛ばされてえのか」
「怒ってるの、そこかよっ?」
 思わず正座したまま項垂れてしまう。
「俺はその台詞が一番嫌いだ」
「……知ってるけど。仕方ねえじゃん、素直にそう思っちゃったんだからさぁ」
「………」
「いいじゃん別に。今の雀夜は男らしくてセクシーで超絶カッコいいよ」
 笑って誤魔化そうとしたが駄目だった。雀夜の厳しい視線は変わらない。


「そんなに嫌だったの?」
「絶対に許さねえ」
「まあまあ怒るなって。俺なんか動画の感想、可愛いしか言われてないよ」
「てめえと一緒にすんな」
 雀夜にしては珍しい、まるで子供みたいな怒り方だ。抱きしめて頭をヨシヨシしたくなる……危ない。ついまた「可愛い」って言いそうになってしまった。
「分かったよ、ごめん。……どうしたら許してくれんの?」
「………」

 *

 苦しい。苦しすぎる。
「オラ、サボってねえでしっかりしゃぶれ」
「んん、ん……ふ、ぅ……」
 もう二十分くらい息継ぎなしで雀夜のそれを咥えている。呼吸がしづらくて、顎が外れそうだ。休憩前の撮影で射精したのだろうか? 全くイく気配がない。
「ん、はぁ……もう……」
「舐めてねえでしゃぶれって言ってんの」
「デカすぎて苦しいってば……それに俺、俺も……」
 フェラチオすると高ぶってしまうのは雀夜も分かっているはずなのに、俺には全然触れてくれない。雀夜の股間に顔を埋めながら腰が動いてしまうのは、目の前のこれを早く俺の中に挿れて欲しいからだ。


「んうっ……」
 頭を押さえられ、再び深く咥え込む。息苦しさはどこか快楽にも繋がっていた。目の前がちかちかして、頭の中が蕩けそうだ。
「出すぞ、桃陽。全部飲めよ」
「ん、ぅん……」
 雀夜が両手で俺の頭を押さえ込んだ。そして──
「っ、……! ん、んうっ! んん、んっ……!」
 予想していたものとは全く違うモノが口の中に注ぎ込まれる。驚いて顔を離そうとしたが、しっかりと頭を押さえられているために逃れることはできない。
「ん、……う」
 だいぶ零してしまったが、その殆どは飲んでしまった……。ようやく解放されて咳き込みながら、俺は雀夜を上目に睨む。
「……最低だ」
「初めてじゃねえだろ」
「だからっていきなり、……!」
 後始末が大変だからプライベートではなるべくやりたくないプレイなのに、雀夜はそんなことお構い無しだ。


「別に雀夜のなら良いけどさぁ。一言ないとびっくりするだろ、もう」
 俺を怒らせて満足したのか、雀夜が長く息を吐き出して不敵に笑った。
「これでチャラにしてやる」
「割に合ってないよ!」
「怒んなよ。別に喧嘩したい訳じゃねえ」
「……自分だけスッキリした顔してさぁ」
「お前のも飲んでやろうか」
「いいよ別に」
 途端に機嫌が良くなってる。一体どういう思考回路をしてるんだろう、この男は。
 背後から抱きしめられ、ベッドに転がされる。髪をくしゃくしゃに撫でてくる雀夜はこれまた珍しいほど楽しそうだ。


「雀夜、変。何でそんなテンション高いの」
「別に高くねえよ」
「高いじゃん。機嫌悪かったり良かったり」
 思えば始めから雀夜のテンションは高かった気がする。普段は俺が雀夜の動画でオナニーしてても──最中は見せないけど、形跡からバレても──無視するか「阿呆か」しか言わないのに。今日に限って、しかも「可愛い」って言っただけで怒るなんて、よくよく考えればおかしな話なのだ。


「仕事で何か良いことあった?」
「別に普通だ」
「本当に?」
「ああ」
 体ごと向き直り、俺は雀夜の胸に頬をあてて囁いた。
「なあ、俺の機嫌も良くさせてよ」
「仕方ねえ」
 寝転がって鼻先を触れ合わせ、擽るようなキスをする。たったそれだけのことで死ぬほど幸せな気分になった。
「口開けて舌出せ」
「え、……でも俺、さっき雀夜の……」
「構わねえから、口開けろ」
「ん……」
 熱くて蕩けそうなディープキス。雀夜の匂いと温もり、切ないほどに湧き上がってくる愛情。怒っててもへこんでても、そんなのどうでも良くなるくらいに心も体も高ぶってしまう。


「チンコ擦り付けんな」
「だ、だって雀夜が膝入れてくるから、ぁ」
 痺れる快感に薄ら笑いさえ浮かべる俺を、雀夜が鼻で嗤って更に煽ってくる。
「勝手に俺の膝でオナニーしてんじゃねえぞ」
「やっ、……あ、そんなこと……言うなっ……」
 恥ずかしいのに腰の動きが止まらない。そもそも一度射精寸前で邪魔されているのだから、そんなに長くはもたないはずなんだ。
「そんなに俺でオナニーしてえなら、存分にしろよ。動画と違って反応してやっからよ」
「ひ、酷い……」
 酷いけど、雀夜の嬉しそうな顔を見れば分かる。雀夜は俺にそれをさせたいんだ。自分をネタに喘ぎ乱れる俺の痴態をライブで見たいということなのだ。
 そしてそんな雀夜の提案は、いつだって俺を扇情的な気分にさせる。それに関してもよく分かっていた。


「……雀夜をオカズにしていいの?」
「お前の好きにしろ」
 恐る恐る、仰向けになった雀夜の上に跨る。Tシャツを捲って雀夜の腹筋と胸元を露出させると、何だか凄くいけないことをしている気持ちになって……堪らなかった。
「はあぁ、やらしくていい体……」
「エロオヤジか」
 俺は早速下着から自身のそれを取り出し、恥を捨てて扱き始めた。
「やば、雀夜、……エロすぎてすぐイくかも」
 濡れた音が耳朶に響く。先走りの体液が雀夜の体に飛ぶ。
「ふ、あっ……あ、あっ……雀夜、止まんね、俺っ……」
「まだイくなよ、もっと楽しませろ」
 ああ、雀夜が俺を見ている。大股開きでチンコを扱きまくる俺の恥ずかしい姿を、目の前でガン見している。


「小っせえくせにビンビンにおっ勃てやがって、エロチンポ噛みちぎってやろうか」
「やっ、やだ……ぁ、あぁっ」
 しかも、言葉攻めのおまけ付きだ。
「俺がいない時、いつも俺の動画で抜いてたのかよ」
「い、いつもじゃないっ……けど、あぁっ……!」
「へえ。他はどんなネタで抜いてんだ?」
「他、は……雀夜と、セックスした時のこと、……思い出して……」
「結局俺かよ」
 ネタにしてるのは俺だけじゃないし、されてるのも俺だけじゃない。俺も雀夜も、毎日誰かのオナニーのネタになっている。
 だって、それが俺達の仕事なんだ──。