ひとりの秘密、ふたりの事情

 パソコン、ヘッドフォン、ティッシュケース、準備完了。
 これだけで今から俺が何をするか丸分かりだろうけど、一応カモフラージュのために面白動画投稿サイトも別ブラウザで開いておく。
「……よし、落ち着け俺。行くぞ」
 ダミーにダミーを重ねて隠したフォルダを開き、一昨日ダウンロードした動画ファイルをダブルクリックする。
 数秒の読み込みが終わって画面に映し出されたのは、今よりだいぶ若くて幼い顔立ちの雀夜だ。
「はあぁぁ……可愛い」
 その仏頂面だけで五杯は飯が食える。画面の中の雀夜は撮影部屋のソファに座り、どこか面倒臭そうに頭をかいたり咳払いをしていた。


〈それじゃあ、軽く自己紹介からお願いします〉
〈雀夜。……十八歳〉
〈お、終わり?〉
 終わりかよ! 思わず撮影者と同じことを思ってしまったが、それもまた雀夜らしくて思わずにんまりしてしまう。
「東京ブレイン・コミュニケーションズ」のサイトからはとっくの昔に削除されてしまった、雀夜のデビュー動画。一昨日の夜に偶然エロ動画アップロードのサイトで見つけたそれは、誰かの手によって違法アップされた動画だ。
 だけど他に入手する術がないなら、違法動画でも構わない。何なら雀夜と事務所に金を払っても良いと思えるくらい、俺はこの動画を探していたんだ。
 一昨日見つけてすぐにダウンロードして、雀夜が仕事で出て行った、今。見るなら今しかない。


〈それじゃあ、立って脱いでくれるかな〉
 無言で立ち上がった雀夜がシャツを脱ぎ、ベルトを外し、ズボンを脱ぐ。潔い脱ぎっぷりと、十八歳でも鍛えられたその肉体に思わず惚れ惚れしてしまう。
 ……ていうか、十八歳。今から七年前の動画だ。今の俺と変わらない年齢の雀夜は、その歳にしては落ち着いていて大人っぽかった。
「ああ、編集仕事しすぎ……!」
 最近の動画よりずっとモザイクが強くて、せっかくの大事な所がよく見えない。目を凝らしても変わらないと分かっているけど、俺は画面に顔を寄せて何とかモザイクの向こう側を見ようとした。


〈形、綺麗だね。オナニーは週どれくらい?〉
〈……あんまり〉
〈セックスの経験は?〉
〈多少〉
 雀夜は素っ気なく答えるだけで、それ以上の情報を見る側に提示してくれない。全くデビュー動画がこんなので、よく人気が出たモンだ。
 画面が切り替わり、雀夜が自分のそれを扱いているシーンになった。誰でも初めはオナニー動画からだ。俺もそうだった。


〈……ん、……ぅ〉
 緊張した様子もなくペニスを扱いている雀夜は流石といったところだ。何のオカズもないのにちゃんと勃起させているし、表情も険しく、演技ではない感じ方をしている……ように見える。
 ああ、それにしても何だか不思議な気分。
 今ではバリタチナンバーワンモデルの雀夜にも、こんな初々しい時代があったなんて。いつもは獣の如く相手を組み敷き喰らっている雀夜が、こんな素直にオナニーして顔を赤らめているなんて。
「めっちゃ可愛い……」
 ぼんやり見ていたらヨダレが垂れそうになる。この頃の雀夜を思い切り組み敷いて逆レイプしたい──今の俺とデビュー当時の雀夜なら、僅かかもしれないけど俺の方がテクニック面で勝っているはずだ。


〈……っ、イきそ……〉
 カメラが雀夜のペニスに寄り、若干だけどモザイクが薄くなった。もちろん、それを見ている俺も自分のそれを扱いている。
「雀夜、雀夜っ……可愛い、超可愛い、雀夜っ……!」
 制服姿の雀夜に抱かれる制服姿の自分を頭の中で想像する。こんないい男、俺が通っていた学校には一人もいなかった。
「あぁぁ、やばっ……!」


 精子を飛ばした画面の中の雀夜と同様に、俺も射精寸前だ──った、のに。


「てめえ何やってんだ?」
「うわあぁぁッ!」
 突然背後からヘッドフォンが外され、危うく心臓が止まりかけた。瞬間的に汗が噴き出し、反り返らせた背筋と腰に痛みが走る。
「さ、雀夜……なんでっ?」
 動画より七歳分大きくなった今現在の雀夜が、何故か俺の後ろにいた。仕事に行ったはずなのに。確かに送り出したのに。
 疑問よりも焦りが募るのは、雀夜が眉間に皺を寄せて、俺ではなくパソコンの画面を見ているからだ。
「ち、違う……たまたま見つけて、偶然見ただけで……」
 違法アップロードされた自分の動画を俺が見るなんて絶対に雀夜は許してくれない。──ましてや、隠れてコソコソ見ながらオナニーしていたなんて。


「………」
 雀夜が俺の顔を一瞥し、続いて、射精寸前だったのにすっかり萎えてしまった俺の股間に視線を落とした。
「休憩で飯でも誘おうと戻って来てやったってのに、てめえは呑気にセンズリこいてんのか」
「ご、ごめ……雀夜、だって俺、……」
「しかもその動画」
「さ、雀夜っ!」
 怒られるよりは呆れさせてしまおうと、俺は立ち上がって雀夜の目を覗き込みながら早口でまくし立てた。
「若い時の雀夜、超可愛かったよ! って、今も充分若いんだけど……今とは違う初々しい感じとかさ。もちろん今の雀夜も大人の男って感じでめちゃくちゃセクシーだし」
「………」
「何て言うか俺、雀夜の全部が知りたくて……。大好きすぎて、デビュー当時の雀夜を知ってる人達に、負けたくなくて……」
 雀夜の手がゆっくりと伸びてきて、俺の頬に触れた。


「雀夜──うああぁッ!」
「しおらしさで誤魔化そうとしても無駄だ」
「痛いっ! 痛い、痛てぇってばぁ!」
 容赦のないアイアンクローに絶叫する俺。
 言い訳無用なのは分かってたけれど!