亜利馬、AVモデルになる -6-

「面白いね、君。今の若い子ってこんな感じなのかな。それとも、何か勘違いしてる?」
「え? ど、どういう意味ですか」
「あのね、亜利馬。俺達の仕事は……」
「おい、黙っとけ獅琉」
 潤歩が獅琉の発言を制し、俺の前に顔を突き出して笑う。物凄い悪巧みを思い付いた悪魔のような笑顔だった。
「今の台詞忘れんなよ。せいぜい頑張ってもらおうじゃねえか、亜利馬くんよ」
「は、はい……」
「あー、楽しみになってきた」
 言いながら潤歩がズボンの尻ポケットからスマホを取り出し、俺に向けてカメラのシャッターを切った。

「後でSNSにあげちゃろ。新人の第一日目の間抜け顔」
「やめなよ潤歩。可哀想だろ」
「いえ、獅琉さん大丈夫です。ガンガンアップしてください!」
 知名度は上げておいて損はない。潤歩のアカウントからなら、きっと発信力も高いはずだ。

「子供の頃からの夢か。絶対に頑張るってか。マジ傑作」
 俺の発言に大笑いしながら、獅琉の冷蔵庫を勝手に漁る潤歩。意味が分からないけれど馬鹿にされているということだけは理解して、俺は「ぐうう」と唇を尖らせた。
 獅琉が椅子をひいて俺の背中を押し、座るよう促す。
「取り敢えず座ってコーヒーでも飲んで、亜利馬の話聞かせてよ。一緒に組むんだからお互いのこと知っておいた方がいいだろ」
「すいません、ありがとうございます」
 獅琉の優しさに救われているようなものだ。これで獅琉も意地悪だったら、俺は尻尾を巻いて地元に逃げ帰っていたかもしれない。
「獅琉、俺にもコーヒーくれ。お前んち、良さげな飲み物全然ねえじゃん」
「いいけど、人んちの冷蔵庫の中身に文句言うなよな」

 それから三人でテーブルを囲み、俺の自己紹介を兼ねた雑談をした。これといって俺には面白い話なんてないけれど、獅琉はしきりに俺の過去の恋愛話を聞きたがった。
「そんな良い話なんてないですよ。俺、今まで彼女いたことないし」
「意外だな。亜利馬、可愛い顔してるから年上の女性からモテそうだけど?」
「全然です。男子校だったし、バイトもおじさんが多い所だったので」

 獅琉に作ってもらったアイスコーヒーのストローを啜りながら、つい苦笑する。モテるのは俺でなく目の前の二人だろう。潤歩だって性格はアレだけど、見た目だけでいえばファンは多そうだ。

「そんじゃお前、童貞かよ」
「……わ、悪いですか」
「ケツは使ったことあんのか」
「あるわけないでしょ! な、何言ってんですか」
 潤歩と獅琉が顔を見合わせ、何やらアイコンタクトして頷き合っている。
「でも、エロいことには興味ある?」
「何なんですか、獅琉さんまで……」
「単純に聞きたいだけ。オナニーとか週どんくらいしてるの?」
「い、言いませんよ!」
 その王子様みたいなハンサム顔でオナニーなんて言わないで欲しい。聞いているこっちが真っ赤になってしまうじゃないか。

「言えよ亜利馬。新人は隠し事禁止って、俺らの中で決まってんだよ」
「………」
 潤歩の鋭い眼に睨まれ、俺は仕方なく白状した。
「……週に、三回くらいですけど」
「え? 十八歳にしては少ないね。それで平気なの?」
「別に少なくねえだろ。俺も学生の時はそんなモンだったぞ」
「潤歩はセフレがいっぱいいたからでしょ。どエロいのばっか揃えてたじゃん。学校でも毎日ヤりまくってたしさぁ」
「そういやあいつら今頃何してるんだろ。ちゃんと今でも俺でオナッてくれてんのかな」
「当時のハメ撮りとか流出しちゃえばいいのに」
「何だと獅琉、てめえ」
「あはは。──って、あれ。どうしたの亜利馬っ」

 俺は椅子に座ったまま前のめりになり、鼻を押さえていた。鼻血が出たのだ。
「わ、わ。大丈夫? ティッシュ、ティッシュ」
「す、すいません……」
 二人の会話を聞いていただけで鼻血が出るなんて、情けないにも程がある。だけど童貞の俺には刺激が強すぎて、興奮を抑えることが出来なかったのだ。
「おい、大丈夫かよお前……」
 流石の潤歩も引いている。俺は鼻を拭きながら天井を仰ぎ、しばし黙って心を落ち着かせた。