サプライズ -2-

「何で俺は制服じゃないのさ」
「体操着って、何かマニアックだからじゃねえの?」
 笑って言いながら、遊隆は学ランの袖を捲った。金髪がいつもより逆立っている。
「ああ、遊隆は不良なんだ。そんで俺は、何? 二十二歳の不良にレイプされる後輩?」
 ぶつぶつと文句を言いながらも、仕方なく体操着に着替える俺。当然パンツも用意されていて、今日はグレーのボーダー柄のボクサーだった。
「雪弥は大人しい優等生。俺はイケメンの留年野郎」
 冗談ぽく言って、遊隆が俺の頬をつねった。
「そんでもって、雪弥は俺らのオモチャだ」
「……怖くなってきた」
「大丈夫、大丈夫」

「着替えたか」
 松岡さんがやって来た。動画の日だからか、いつもよりも怖い顔になっている。
「着替えましたけど……」
 なんだか恥ずかしくてモジモジしてしまう俺の全身に、松岡さんが鋭い眼光を向けた。頭のてっぺんから足の先までを見つめられ、早くも裸にされたようなもどかしい気持ちになってくる。
「……よし。雪弥はオッケー。遊隆はどうだ」
「学ランの前、どのくらい開けるといいっすかね」
「全開でいっとけ」
「大丈夫ですか? ダサくないすか?」
 ……いいなぁ。俺なんてダサいダサくないの問題ですらないのに。

「あの……松岡さん。他のモデルさん達って、どこに?」
「別室で待機だ。出番になったらすぐ出てくるから気にすんな」
「誰がくるんですか? どのくらい?」
「教えたらサプライズにならねえだろ」
 それから松岡さんはスタッフ達の方へ戻り、あれこれと指示を始めた。いつも真剣で、滅多なことでは笑わない松岡さん。彼はどういうセックスをするんだろう。ふとそう思って、少し顔が赤くなった気がした。
「そんじゃ始めるぞ。遊隆と雪弥、ついて来い」
 撮影するスタジオはすぐ隣の部屋だった。
 鉄扉を開いて中に入った瞬間、思わず俺は「あっ」と声を漏らした。

「すげえ……」
 俺が通っていた高校の体育館……にもあった、「体育倉庫」。まさにそれだった。
 ボールの入ったカゴや跳び箱、審判台や平均台、運動用マット、バドミントンのラケット……遊びたくなるような体育用具の数々も用意されている。本物の体育倉庫をどこかから借りてきたかのようなセットだった。
「最初は二人の絡みだ。雪弥、遊隆の指示に従え。普段通りでいい」
 格好からして普段通りじゃない訳だけど。
「は、はいっ!」
 遊隆が俺の腕を握った。
「雪弥、頑張ろ」
「うん!」

「はい用意、……スタート」
 松岡さんの声と同時に、遊隆が俺を体操用マットの上に転がした。
「いてっ! 何すんだよっ」
 突然乱暴に扱われ、つい素の声が出てしまった。
「雪弥ぁ、お前なんでまだそんな格好してんだ?」
「なんでって……」
「着替えんの忘れたのか? 本当にトロい奴だな」
 遊隆が俺の体にのしかかってきて、意地悪そうに眉を吊り上げる。囁かれる声も見事なまでに悪意に満ちていた。
「やめ……」
「それとも、俺のこと誘ってんのか」
「……先輩、体操着フェチなの?」


 マットに背を付けて仰向けになった俺は、侮蔑の意味で目を細めて遊隆を見た。
「俺の生足にムラムラしてんだ。変態っすね」
「う」
 よせばいいのに、この状況が面白くて遊隆を挑発してしまう俺。遊隆は一瞬怯んだように眉を顰め、だけどすぐにまた笑みを浮かべて俺に言った。
「ずいぶん生意気だな。寝てる俺の傍でオナニーしてたくせに、お前の方が変態だろ」
「う」
 赤面した顔を隠すようにそっぽを向くと、遊隆が片手で俺の頬を包んで自分の方へ向けさせた。唇が近付けられる。
「もっかい教育が必要だな」
「ん……」

 二度、三度と弾くようなキスを繰り返し、その後に深く口付け合う。遊隆の舌は前と同じように柔らかく、熱く、俺の中で蠢く。
「んぅ……ぁ」
 体操着のシャツが捲られ、遊隆のひんやりとした手が俺の肌を弄ってきた。そうしながら、糸を残して口から抜いた舌を、そのまま俺の頬に這わせる。
「んっ。んぁ……やっ」
 俺の体もこの前と同じだ。長い間我慢し続けていた欲望が、遊隆の手と舌によって少しずつ解放されてゆく。


「あぁっ……」
 尖り具合を確かめるように、遊隆の指が俺の乳首をくすぐった。
「ふぁ、あ……やめっ……」
「相変わらず感度いいな」
「よくなっ、……い!」
「ふうん?」
 スッ、と遊隆の手がシャツから抜かれた。突然愛撫を止められて、俺は不満に唇を尖らせる。
 遊隆は俺の手を引いてマットから起き上がらせ、背後に回って何やら跳び箱の方へ向かった。何してんだと思いつつ様子を伺っていると、
「雪弥、これ跨いで座って」
「ん?」
 そう言って、遊隆が跳び箱の一段目をマットの上に乗せた。
「こう?」
 馬乗りの格好で跳び箱に跨ると、遊隆も同じように俺の後ろに座った。背後から抱きしめられ、耳元で低く囁かれる。
「俺の仲間にも、雪弥の好きなことしてもらおうか?」
 ああ……。そういう展開か。

 遊隆がスタッフに目で合図を送ると、俺が乳首を揉まれてる間に待機していた茶髪と黒髪のモデルが二人、こちらに近付いてきた。二人とも初めて見る顔だ。遊隆と同い年くらいだろうか……学ラン姿ではよく分からない。
「遊隆さん、俺達もまぜてくれるんすか」
 ニヤニヤと笑う二人はいずれも髪を不良っぽく逆立てている。目付きも相当に悪く、街で見かけたなら絶対に関わり合いになりたくない部類の人間だ。もし俺の後ろに遊隆がいなかったら、撮影と分かっていても本気で怯えていただろう。
「いいぜ。お前ら、雪弥のこと好きなんだよな?」
「え……」
 そんな設定、意味あるのか。


「そうっすよ。雪弥くん大好き」
「たっぷり可愛がってやるからな」
 急に二人の顔と声が変態じみたものに変わった。俺は息を飲んで次の展開を待つ。
「雪弥、自分から二人にして欲しいこと言ってみな」
「何言っ……」
 最後まで言わないうちに、遊隆が唇を寄せてきた。キスをされるのかと思いきや、今度は遊隆の舌が俺の耳を撫で始める。
「ひっ、……な、何……?」
 耳を舐める濡れた音が頭蓋にまで響き渡る。その不快な音よりも、形容しがたい妙な感覚の方が勝った。
「や、やだっ、やめ……」
 耳の穴に舌を差し込まれる度に、ゾクゾクと背中が波打つ。そのうちに遊隆の太い指が俺の唇を割り、中に入ってきて舌を撫でた。


「んゃっ……」
 次第に、頭の中に霞がかかったような感覚が襲ってきた。目の前がぼやけ、蛍光灯の白い明かりの下にいる二人のモデルの顔もはっきりしなくなる。
 遊隆は俺の耳の中を犯し続けた。何も言わず、ただひたすら──俺の耳の穴に舌を出し入れし、時折耳の縁を甘噛みし、音をたてて舐め回してくる。
「はっ、あ……」
 俺は興奮していた。遊隆に耳を舐められただけで。
「そろそろ出来上がってきたか?」
 遊隆の舌が耳から離れた。
「あ……あ、はぁ……」
 体中が疼いている。頬が熱く、額には汗をかいていた。