雀夜 -3-

「ん、う……」
 舌はそのままで、俺は雀夜の膝にその部分を押し付けながら腰を前後に動かした。お互いにジーンズを穿いてるために、そこまで刺激は伝わってこない。だけど、そのほんの僅かな快感が堪らない。もっと欲しくなって、自然と扇情的な気分になる。
「はっ、あぁ……」
 迷った挙句、俺は雀夜のベルトに手を伸ばした。それに気付いた雀夜が俺の足の間から膝を抜く。
「自分から脱がしにくるとはな」
 俺は蓋の閉まった便座に座り、無言で雀夜のファスナーを下ろした。ジーンズと下着を同時にずらし、露出したそれを手で握る。自分でも分かるくらいに、体は震えていた。
「んっ……」
 弾力のある雀夜のペニスは、萎えていても口に含むのがやっとだった。眉間に皺を寄せて愛撫する俺の頭上から、雀夜の声が降ってくる。
「シャワー浴びたばっかりだ。安心しろ」
「………」
「昨日散々、桃陽に使ったけどな」
 頭の芯がカッと熱くなった。桃陽の言葉が蘇る。
 ──雀夜はセックスも最強。

「ん、ん……。んぐっ……、ぅ」
「力だけで勃たせようとするな。痛てぇだろ」
「んぅ……、よく分かんない……。雀夜、全然勃たないし……」
 口から抜いて扱いてみたが、それでもあまり反応していないように見える。それほど俺が下手ということなのか。
「仕方ねえ、手本見してやる」
「えっ」
 言うなり、雀夜はその場にしゃがみ込んで俺のベルトを外した。


「ちょ、待って……」
「どうした?」
「俺、シャワー浴びてない……」
「別に関係ねえだろ」
「か、関係あるって。汚い……!」
「桃陽と普段小スカプレイで遊んでる身としては、こんなモン大したことねえよ」
「そ、そんなこと……」
 軽く鼻で笑われ、黙るより他なくなってしまった。
 脱がされたジーンズが、扉の内側にある荷物用フックに掛けられる。続いて雀夜は俺の下着を小さく丸め、それを俺の手に握らせた。
「足、開け」
「……う」
 ゆっくりと左右に足を広げると、雀夜が自分の唇を舌で濡らしながら笑った。


「半勃起状態じゃねえか。お前はこういうシチュエーションが好きなんだな」
「ち、違っ……あぁっ!」
 いきなり咥え込まれ、思わず俺は両側の壁に手を付いた。強烈な一瞬だった。
「あっ、あ……! サ、クヤっ……!」
 たっぷりと唾液を含んだ口の中で、雀夜の舌が俺のそれを激しく舐め回してくる。卑猥な濡れた音が個室の中に響き、半勃ちだった俺のペニスはあっという間に雀夜の口の中で完勃ちになった。
「ふあぁっ、あ、あっ……!」
「声でけえよ」
「んっ、ん……んぅ、あっ……ん」
 堪えようにも、声が出てしまう。俺は片手で口を塞ぎながら雀夜を見下ろした。ゆっくりと、時に激しく頭を前後させる雀夜の表情には、初めて咥える俺のモノへの嫌悪感など微塵も滲み出ていない。


「やっ……!」
 突然、音をたてて先端を吸い上げられ、便座から腰が浮いた。
「やっ、やめ……! あぁっ、嫌っ……だ、……雀夜っ……!」
 どんなに腰をよじっても雀夜はそれを止めてくれない。吸い込むと唇の隙間から冷たい空気が入ってきて、腰が尋常でないほど痙攣した。今にもイッてしまいそうだった。
「うあぁっ……あ、あぁっ……ん」
 もうこれ以上は無理だと思ったその時、ふいに雀夜の頭がそこから離れた。

「……え……?」
「シ」
 雀夜が片手で俺の口を塞いだ。個室の外──恐らくは廊下の方から声が聞こえたからだ。
「トイレいつ直るって? 業者に頼んだんだろ」
「来週って言ってたぞ」
 スタッフの声だ。こっちに向かってきている。
「そういや、雪弥と雀夜はどこ行っちゃったんだ。そろそろ雪弥の撮影時間だろ」
「あれ、桃陽にトイレ行ってるって聞いたけど……。雀夜はコンビニでも行ってるんじゃないか?」
「誰もいないぞ」
「………」
 俺は息を殺して彼らが立ち去るのを待った。雀夜も動きを止めている。それでも俺は足を大きく開き、下半身を露出させたままだ。


「おかしいな。雪弥、トイレの場所分かんなくて迷ってんじゃねえの?」
 すぐ戻るから。だから早く行ってくれ。
 思った刹那、雀夜の手が俺のそれをきつく握った。
「っ……」
 そのまま、ゆっくりと先端を指で弄られた。声も出せず、体をくねらすこともできないでいる俺の反応を楽しむかのように……雀夜の指が尿道口をちろちろと擦る。
 涙だけが止め処なく溢れ、俺は左右に首を振ってそれを拒んだ。


「しかし、雪弥は見込みあるよな。初めての撮影であれだけメールきた新人って他にいたっけ?」
 指の動きが止まり、今度は握られた状態で前後に扱かれる。
「っ、……!」
「桃陽と雀夜は元々ゲイの間では有名だったし、うん、やっぱ雪弥が初めてかもね」
 スタッフの二人は個室に俺達がいるなんて全く気付かずに用を足している。
「遊隆の凌辱攻めに対応できるようになったら最強コンビになるかもな。そうなれば雀夜達、きっと売上抜かれちゃうぜ」
「そしたら雀夜達ももっと激しいプレイ考えるよ。想像しただけで興奮するわ」
「お前、雀夜のファンだもんな」
「あはは」
 笑ってる場合じゃない。その雀夜に今、俺は──。
 手の動きが急に早まった。
「……、んっ……」
「あれ?」
「何か今、聞こえたな」
 ──やばい。


「っ、……。っ……」
 俺は慌てて口を塞ぎ、雀夜の動きに耐えた。
「雪弥? 入ってんのか?」
「っ!」
 個室のドアがノックされた瞬間、俺は我慢しきれずに──射精してしまった。
「は……」
「雪弥?」
「はい……」
「なんだ、やっぱ入ってんのか。おーい、そろそろ撮影始まるから早く戻って来いよ」
 俺は大股を開き、意識朦朧の中で、ドアの向こう側に返事をした。
「はあぁい……」
「大丈夫か? 具合悪いのか?」
「へいきです……ぜんぜん、だいじょうぶ……」
「そうか。じゃ、待ってるからな」
「はぁい……」
 足音が遠ざかってゆく。

「………」
「お前な、もっとましな声で返事できねえのか」
「お、お前が強引に弄るからっ……」
「邪魔が入ったせいで最後までできなかった、残念だったな」
 俺はそそくさとトイレのペーパーで汚れた部分を拭き、下着を穿いてジーンズに手を伸ばしながら言った。
「誰も来なかったら、最後までするつもりだったのかよ……」
「当然だろ」
 ベルトを直した雀夜が個室の鍵を開ける。
「自分の得にならねえセックスなんてする意味がねえ」
 そう言い残してトイレを出て行った雀夜。俺はその後も便座に腰を下ろし、しばらく立ち上がることができずにいた。

「………」
 雀夜にイかされてしまった。ついカッとなったとは言え自分から望んでやったことなのに、この、胸の中にぽっかりと穴があいたような虚無感はなんだ。
 確かに、凄く気持ち良かった。でもたぶんそれは特別雀夜だったからとかじゃなくて、単に俺が男の愛撫に慣れてきたからこそ、そう感じたのかもしれない。
 雀夜はどうしてあんなことをしたのだろう。
 遊隆の足を引っ張るなと言っていた。遊隆に深入りするなとも言っていた。半ば強引だったけど、遊隆との仕事のために変わろうとした俺に「遊隆以外の男」を教えてくれた。
「………」