初出勤 -5-

 それから俺達は私服に着替え、ビルを出て適当なファミレスに入った。向かい合ってテーブルに座った俺に、遊隆が早速問いかけてくる。
「雀夜と桃陽の撮影、見てみたんだろ? どうだった」
「……うん。単純に凄いと思った。演技だけであそこまでできるなんて、さすがプロなんだなぁって」
 通りがかったウェイトレスに注文を頼んでから、遊隆が煙草に火をつけて言った。
「演技とは少し違うんだよな、あれは」
「え?」
「簡単に言うと、あの二人はエロいスイッチを瞬時に入れることができるんだ」
 それと演技がどう違うのか分からなくて、俺は首を傾げて遊隆に話の先を促した。


「雀夜が桃陽の遅刻にキレて怒鳴ってたの、覚えてるか?」
「覚えてる。すごい空気固まってた」
「雪弥が桃陽の立場だったとして、あんな風に怒鳴られた後に雀夜と絡めるか?」
「うーん。仕事と割り切ってなら、たぶんできると思う。桃陽だってそうなんじゃないの?」
「そこなんだよ」
 遊隆が煙草の先端を俺に向けて煙を吐いた。


「あいつらは割り切るっていうよりも、無かったことにしちまうんだ。例えば直前で殴り合いの大喧嘩をしたとしても、撮影が始まった瞬間に全部頭から取っ払える。これって簡単そうに見えてすげえ難しいことだぜ」
「……なるほどね。でも互いにある程度の信頼関係があったらできることなんじゃない?」
 頬杖をついて笑う俺に、遊隆が言った。
「絡む相手が初対面の奴だったら?」
「えっ?」
「それも、自分が全く興味ないタイプの奴。極端な話、不潔でハゲデブのジジイが相手でも、それができるか?」
「……できない。絶対無理」
「それができるのが、雀夜と桃陽のすげえとこなんだ」
「………」

 黙り込んだ俺の不安を察知したように、遊隆が慌てて付け加えた。
「いや、昔の話な。まだ会社ができて間もない頃。あの時はまだモデル同士が絡むってのは無かったからさ。今はそんなことしねえから安心しろ」
「ならいいんだけど……」
「でも実際、雀夜と桃陽が絡むのはあれが初めてなんだ。今まで二人とも違う奴とやってたんだけど、色々事情があってな」
「そうなんだ……」
 なんとなく引っ掛かるものがあった。
 遊隆も以前の相方とコンビ解消したばかりだと昨日聞いた。雀夜と桃陽も今日から組んだのだという。
「お待たせ致しました」
 二人分のランチセットが運ばれてきた。俺はハンバーグにフォークを入れながら、恐る恐る遊隆に訊いてみる。
「もしかして、遊隆の前の相方って」
 言った瞬間、ハンバーグを頬張る遊隆の顔が強張った。
「……雀夜なんだ」
「ん」
 遊隆の気まずそうな表情に、これ以上は訊かない方が良さそうだと思った。


「でもまぁ、これからは雪弥と組むんだからな。初心に帰って、俺も雪弥と一緒に頑張るぜ」
「う、うん」
 そうだ。俺も遊隆もこれから二人で頑張ればいい。簡単なことなのだ。
「じゃあさ、雪弥」
 遊隆が顔を寄せ、秘密めかした表情で言った。
「午後から俺らの動画の打ち合わせがあると思うけど、雪弥だったらどういうシチュエーションがいい?」
「えっ!」
 突然言われても顔が赤くなるだけで、何も思い浮かばない。
「俺はせっかくだから、あの制服着てやってみたいけどな。それか、雪弥が生徒で俺は教師役でもいいな」
「え、え……?」
「顔赤いぞ。大丈夫か?」
「べ、別に俺は何でもできる……。どんなにエロいことだってできる自信あるしっ」
 しどろもどろになる俺を見て、遊隆が豪快に笑った。