初出勤 -4-

「あっ、……ゆ、遊隆っ……」
 ブルーのハート柄パンツが完全に露出している。遊隆の手の下で盛り上がっている。
 シャッターが次々と切られる。見られている──。
「ふ、あっ……」
 遊隆の手の動きがじれったくて、俺は腰をくねらせながら熱っぽくカメラを見つめた。もっと触って欲しい。熱くさせて欲しい。カメラのミラーに遊隆を求めた。
 口元に伸びてきた遊隆の指を咥える。舌を巻き付かせ、甘噛みする。どうしようもなく気分が高まってきて、この際、もう誰に見られてもいいから遊隆に滅茶苦茶にして欲しくなる。
 パン、という乾いた音が響いた。松岡さんが両手を叩いた音だ。
「オッケー。じゃあ一旦休憩」
「え」

 思わず素の声を出した俺からカメラがスッと引いていった。それと同時に、遊隆の手も離れてゆく。
「お疲れ、雪弥。俺一服してくる」
 まるで何事もなかったかのように、遊隆がベッドを下りて部屋を出て行った。松岡さんはカメラマンと一緒に撮ったばかりの画像を確認している。照明も消され、俺だけが一人、はしたない格好のままでベッドに取り残された。
「………」
 急に恥ずかしくなり、慌ててシャツを直してズボンを穿いた。


「雪弥くん、冷蔵庫にジュースあるから好きなの飲んでいいよ。あ、でもミネラルウォーターは雀夜のだから駄目ね」
 スタッフの誰かが声をかけてくれたけど、俺は半分も聞いてなかった。そそくさと部屋を出て遊隆の後を追う。
 遊隆は既にベランダにいて、制服姿のままで煙草をふかしていた。
「遊隆」
「お、雪弥。撮影どうだった?」
「うん……。結構大変と思った」
「だよな。初めてはそんなモンだ。でも慣れたらすぐにコツ掴めるから大丈夫だぞ」
 俺は遊隆の隣に立ち、手すりにもたれて唇を尖らせた。
「遊隆、わざと触ったりしただろ」
「雪弥の気分を高めるためだ。実際エロい気分になっただろ?」
「そうだけどさ……」


 仕事としてはそれでいいのかもしれないけど、俺の高ぶりはどうしてくれる。寸止めみたいな真似をされて不満だった。正直言って、今すぐトイレで発散させたい。撮影の度に毎回こんな感じになるとしたら体がもたない。遊隆はそれで平気なのか。
「……休憩って、どのくらい?」
 なるべく事情を悟られないように、遊隆に問いかける。
「ん。しばらく時間あるぞ。たぶんこの合間に雀夜と桃陽の撮影すると思うから」
 雀夜が、桃陽と……。ついさっきの俺達みたいに絡むのだろうか。
「雀夜、あんなに凄い剣幕で桃陽を怒鳴ってたのに撮影なんてできんの?」
 ひょっとしたら撮影中も桃陽が何かやらかして、あの張り詰めた空気が再現されてしまうんじゃないか。想像すると焦ってしまう。
 すると手すりに頬杖をつき、紫煙を吐きながら遊隆が笑った。
「撮影中は別人になるからな。一回見とくと参考になるかもしれねえぞ」
「別人に……って、どっちが?」
「雀夜も、桃陽も。両方」
 俺は息を飲み下し、ベランダから室内に戻った。
 単純に興味があったのだ。あの二人がどんなふうに変わるのか見てみたい。

「失礼します……」
 さっき俺達が使っていた部屋。ドアを顔の幅程度に薄く開いて中を覗いてみると、既に撮影が始まっていてベッドの上には雀夜と桃陽がいた。
「っ……」
 二人とも衣装に着替えた様子はなく、普段着のままでそこにいた。ベッドの上で向かい合って座り、目を開けたままキスをしている。その光景にも驚いたけど、何より俺は、二人の顔が完全に「出来上がっていた」ことに面喰らった。


 見つめ合って舌を絡ませている雀夜と桃陽。まるで本物の恋人同士のような、互いを求めて仕方ない表情。桃陽の頬は赤く染まり、長い睫毛を切なげに伏せている。雀夜は整った眉を寄せて険しい表情をしているのだが、それは桃陽を怒鳴った時のそれとは全く別の顔だった。そんな鋭く見つめられたら、雀夜の性格を知らない者なら一発で堕ちてしまう。素直にそう思った。


 二人の雰囲気に見とれていると、スタッフが俺に気付いてドアを開け、中へ入れてくれた。
「桃陽、仰向けになってシャツ捲り上げろ」
 松岡さんが指示を出す。それを聞き、一度唇を離す二人。雀夜がふとこちらへ視線を向けてきた瞬間、俺と目が合った。
「………」
 つまらなそうな表情だ。俺に「見るな」とも「見ろ」とも言っていない、心底どうでもいいと思っているような目付きだ。性格の悪さ、荒さが滲み出ている顔だ。
「雀夜、上乗って」
 それが次の瞬間にはもう、別の顔になっている。桃陽の肌を愛おしむように頬で触れ、口付けし、手のひらで撫でながら──。
「あっ……」
 桃陽が小さく声を漏らした。薄桃色の小さな乳首に、雀夜が舌で触れたからだ。
「やぁっ、あ……」
 無防備に開いた桃陽の体へ、雀夜が愛撫を繰り返す。その度に桃陽は眉根を寄せて甘ったるい声を出し、目尻に涙を溜めてカメラを見つめる。
 これが、全て、演技なのか。


「雀夜、気持ちいい……」
「じゃあもっと声出せ」
 囁き合う声も、本物の恋人同士のようなそれだ。
 気付けば写真撮影用のカメラだけでなく、ハンディタイプのビデオカメラも二人に向けられていた。写真と動画の撮影を同時に行っているらしい。
 もしかして、このまま二人は最後まで……。
「い、や……! あっ、あぁ!」
 全て脱がされ、剥き出しになった桃陽の下半身に雀夜の顔が落とされた。すかさずビデオカメラが雀夜の背後に回り、その部分をアップで撮影し続ける。桃陽のそれに舌を這わせ、音を立てて吸い上げる雀夜の表情──何だか、凄く色っぽい。

「………」
 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。遊隆に触れられ、一度は鎮まったはずの下半身が再び熱を持ち出している。あと一歩部屋を出るのが遅れたら、前屈みになってその場でうずくまる羽目になっていたかもしれなかった。
「おっ、雪弥ぁ。今のうちに昼飯食いに行こうぜ」
 何も知らない遊隆が能天気な笑顔で近付いてくる。俺は遊隆の顔がまともに見られなくて、左右に視線を泳がせながら曖昧に頷いた。
「どうした? 具合悪いのか?」
「ん……少し。でも大丈夫、大人しくしてればすぐ治るから」
 遊隆の心配そうな顔に多少胸が痛んだが、嘘は言っていない。俺はしばしの間目を閉じ、下半身を静めるためのどうでもいい想像を頭の中に思い描いた。
「……おっけ。遊隆、飯行こう」