雪弥 -2-

 適当に入ったホテルの部屋で、俺と遊隆は交互に軽くシャワーを浴びてからベッドに向かい合って座り、まずは適当な話をした。ホテルに入るのは初めてだ。これで彼の言う『面接』がどんなものなのか、何となく想像が付いた。
「名前、何ていうんだ? 俺の遊隆は本名だけど」
「……雪弥ゆきや、です」
「本名なのか?」
「はい」
「変わってんなぁ。あんないかがわしい掲示板に本名のまま書き込んだら駄目だぜ」
 ベッドの上であぐらをかいた遊隆が煙草をくゆらせながら笑った。


「で、十八歳になったばかりってのは本当か?」
「本当だよ。って言っても高校辞めたから、学生証とかは持ってないけど」
「俺も中卒。一緒、一緒」
「遊隆は何歳?」
「二十二。──お前、よくあの掲示板使って援交してんの?」
「してない。仕事探してたら遊隆の書き込み見つけただけ」
「そっか。ノンケかバイかゲイで言ったらどれだ?」
「三つ目……」
「俺もゲイ。一緒、一緒」
 遊隆が鞄からクリップでまとめられた資料のような物を取り出した。数枚を抜き、俺に差し出す。


「じゃ、早速始めるか。──簡単に説明すると、男同士で絡んだ画像とか動画をネットに載せて、ダウンロードの数によってバックが貰える歩合制の仕事だ。DVD販売がメインになってる一般的なAVメーカーと違うところは、基本的に絡むモデルが決まってるってこと」
「同じ人とずっとコンビを組むってこと?」
 口を挟むと、遊隆が頷いた。
「ごくたまに違う奴と絡む場合もあるけど、それは特別な企画の時とか試験的にとかで、基本は同じ奴とだな。だからカップルで応募してくる奴らもいる。別れたらソッコーで辞めてくけど」
「ふうん……。変わってるな」
「何て言えばいいかな。ユニット組んで歌ってCD出すみたいなモンだ」

 俺は手渡された資料に顔を落とした。
 説明を読む限りだと、どうやらセクシー系ネットアイドルに近い仕事らしい。濡れ場の他にも、普通のデート風景なんかも需要があるとのことだ。嘘か本当か、サイトに会員登録している客は男女合わせて四百万人以上と書いてある。
 画像の閲覧は基本無料。ただし会員のみが閲覧できるハードな画像もあり、それはダウンロードの数で報酬が発生する。動画も同じでオフショットは無料、メイン動画はダウンロード数による歩合制。どれほど稼げるのか見当もつかないが、なにしろ客がそれだけいるのだから、資料によれば人気モデルはかなりの高給になるらしい。


「難しいのは組んだ相手とどれくらい息が合うか、ってことだな。最悪の場合、足の引っ張り合いとかもあるし、協力しねえとぎこちなさはすぐ画面に表れる」
「で、俺は遊隆と組むってこと?」
 遊隆が頷いた。
「そうだ。だから面接も俺がやる。自分の目で見て直接確かめねえと分かんねえからな。俺の前の相方だった奴は、どうしても俺と性格が合わなくてさ。つい最近、コンビ解消されちまったんだ」
 俺は口元に手をあてて考えた。
 遊隆と組んでカップルを演じ、それをサイト利用者に見てもらう。演技なんてしたことないから自信はないが、相手が遊隆だけなら慣れれば楽かもしれない。
「でも、同じ相手とずっと組むのって、お客さんに飽きられるんじゃないの?」
 俺だって同じ奴のAVなんてずっとは見ていられないと思う。相手やシチュエーションが毎回違うからこそ、メインの男優が同じでも新鮮さがあるというものだ。

「俺も最初はそう思ってた」
 遊隆が言った。
「だけど実際客からのメールとか見てるとさ、恋人同士で絡んでるみたいなのがいいんだってよ。初めは絡むモデル変えて色々試してたみたいだけど、客からしてみれば気に入ったカップルの片方が別のモデルと絡んでると、寝取られたみたいで萎えるんだってさ」
「なるほどなぁ……」
「俺らの客は、プロの演技よりも素人の自然さを求めてるって訳だ」
「いろんな需要があるんだな」
「その通り」
 よく分かった。
 取り敢えず俺が採用されたなら、遊隆と恋人みたいに接しなければならないということだ。
 そしてそれができるかどうかの面接は、これから始まる。

「掲示板に十代優遇って書いてあっただろ。遊隆は年下の奴と組みたいんだ?」
 俺が言うと、遊隆は照れ臭そうに金髪をかき毟って笑った。
「いや、別に歳は関係ねえけど。前まで組んでたのが年上で懲りたからよ、今度は若い奴の方がいいかなって」
「……俺、あんまりそういうの、したことないんだけど……大丈夫かな。キスすらしたことないんだけど」
 俯き、両手を擦り合わせる俺の頭に遊隆の手が乗せられる。
「大丈夫だ、俺が教えてやる」
「………」
 不覚にも、その台詞にドキッとしてしまった。遊隆は真剣な表情で、俺の顔をじっと見つめている。その鋭い瞳に見つめられているうちに、なんだか心も体も一気に丸裸にされたかのような気分になってくる。


「そんじゃ、最初はキスからしてみるか?」
「……うん」
 目を閉じ、きゅっと唇を結んだ。
「そんな硬くならなくていいって。リラックス」
 言われるまま力を緩めた俺の頬に、遊隆の手が触れた。続いて、柔らかな唇が押し付けられる。
「………」
 遊隆の舌がゆっくりと、俺の唇の隙間をこじ開けてくる。心臓はバクバクと早鐘を打ち、握り締めた両手に汗が滲んだ。
「ん……」
 さすがに遊隆はキスが上手い。初めてのキスだというのに、だんだんと心地良くなってきた。
 遊隆が舌を絡ませながら俺の体を仰向けにさせ、その上に覆い被さってくる。
「雪弥、口開けろ」
「あ……」
「そのまま舌、絡まして」
「ん、あ……」
 キスだけで声を漏らしてしまう俺の頭の下に遊隆の太い腕が入ってきて、強く抱きしめられる格好になった。俺も伸ばした腕を遊隆の首に回す。激しく舌を絡ませるうちに、心地良さは徐々にヤラシイ気分へと変化してゆく。


「んっ……ん、ぅ」
 遊隆が俺の耳元に口を寄せて言った。
「お前、ちょっと反応してるだろ」
 俺のその部分は遊隆のそれと重なる形になっている。
「キスだけで興奮してんのか。さては童貞と見た」
「う」
 それは図星だった。俺は誰かを抱いた経験は一度もない。