大凶 -4-

 俺はガタガタ震えながら雀夜のシャツから手を離した。
「俺にお仕置きしてほしくて、わざと反抗的な態度取ってたんだろ?」
 震える両手を握りしめ、頭に乗せる。下を向き、顔を庇う。
「なあ、玲司?」
「……そ、そうです。僕が悪い子で、お父さんのお仕置きが必要だったから……。だから、お仕置きされても仕方ないし、僕はインランな子だから……お父さんに可愛がってもらえて、う、……嬉しい、です」
「桃陽……」
 雀夜が悲痛な面持ちで俺を見下ろしている。


「お父さんごめんなさい。もう泣きません。だから許してください。ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい」
「これで分かっただろ、玲司には俺が必要なんだよ。久々に会って積もる話もあるんだわ。悪いけど帰ってくれねえか、兄ちゃん」
「………」
「ごめんなさい、お父さんごめんなさいっ……」
「玲司よ、顔は殴らねえから庇わなくていいって、俺いつも言っ……」


 何の前触れもなく、鈍い音が響いた。


「ぐっ──」
「雀夜……」
 背中から後方へゆっくりと倒れてゆく、俺のお父さん──奥田正一。
 恐ろしいまでに無表情な、雀夜の横顔。
 握った拳。
 地面に落ちた白いもの。赤い色。
 遠くの方で、通行人の発した悲鳴。
 全てが長い一瞬だった。


「が、あぁっ……は、歯がっ……!」
 鼻と口元を押さえてのた打ち回る奥田。ボタボタと流れ落ちる血が、地面に赤い染みを作ってゆく。それを見下ろしていた雀夜が奥田の体を跨ぎ、身を屈めて何かを耳打ちした。
「……、………」
 そして今度は、俺にもはっきり聞こえるように雀夜が言った。
「……分かったか。二度と桃陽にも、こいつの家族にも近付くな。次は歯だけじゃ済まさねえ」
「うう、う……あ、う……」
 恐怖と痛みに顔を引き攣らせ、何度も頷いている奥田。雀夜は奥田に背を向けて、何事もなかったかのように俺の手を握った。
「帰んぞ、桃陽」
「あ……」
 何が起きたのか、突然すぎて理解できなかった。歩き出そうとした瞬間、足がもつれて倒れそうになる。雀夜が咄嗟に俺の体を抱きしめた。


「………」
「仕事サボってんじゃねえよ、馬鹿野郎」
「ごめんなさい……雀夜」
 もっと他に言うことがあるのに、どうしても瞼が重くて、俺は雀夜に抱かれたままで目を閉じた。意識がなくなる寸前、何とか声を振り絞って雀夜の耳元に囁く。
「……ありがと、う……」
「………」