初撮影 -3-

「それでな、あのなー、松岡さんが言ってた。俺には相方付けないで、複数プレイとかするんだってさ」
 昼食は近場のファミレスでとることになった。雀夜の正面に座った俺は、パスタを頬張り、口をモグモグさせながら頬杖をつき、第一日目の仕事の感想や今後の予定なんかについて、ひっきりなしに喋った。


「複数ならある程度はされるがままになってればいいから楽だけど、人数分咥えないといけないから顎が痛くなるんだよね」
「桃陽」
「なに?」
 雀夜が大盛ライスのステーキセットに箸を伸ばしながら言った。
「口に物を入れて喋るな。肘もつくな。それから、公共の場で堂々とそんな話をするな」
「あ……」
 俺は慌ててテーブルから肘をどかす。


「……意外と真面目なんだね」
「育ちが知れるぞ。飯の食い方ってのは、そのまま人間を表すからな」
「気を付ける……。でもさ、仕事中は雀夜とゆっくり話せないんだもん。恋敵の遊隆がいるしさ。休憩、一時間しかないって思うといっぱい喋りたくなる」
 むくれる俺を、雀夜が笑う。
「遊隆はお前の恋敵なのか。あっちはそんなこと微塵も思ってねえだろうよ」
「だって俺の雀夜を独り占めするなんてズルい」
「いつから俺はお前のモンになったんだ」
 ニコッと目を細めると、雀夜は溜息をついて水の入ったグラスに手を伸ばした。


 そしてふいに俺を見て、思い出したように言った。
「近いうちに仕事終わった後、俺の部屋来るか?」
「雀夜の部屋? 行きたい! 今日行く!」
「今日は俺の仕事が遅くなるから無理だ。時間取れる時に、ゆっくり話聞いてやるよ」
「どうしたの? やけに優しいじゃん」
「定期的に優しくしねえと、突然辞められたら困るからな」
「なんだ、俺のこと好きになった訳じゃないのか」
 それから俺達は食事を終え、一服してからビルに戻った。


「あっ、雀夜。探したんだぞ」
 事務所で俺達を待っていたのは遊隆だった。
「どうした、何かトラブルか?」
「いや。午後からの撮影が例のスタジオに変更になったから、早めに移動しねえと」
 撮影、か。また遊隆は雀夜とセックスするんだ。……羨ましい。
「ふぅん。移動は面倒だけど、あの辺の店は飯が美味いからな」
「な! また帰りに焼肉食ってこうぜ。桃陽も後で合流して、一緒に来るか?」
 遊隆がニッと笑って俺の顔を覗き込んだ。明るくて優しくて、どこまでも健康的な笑顔。きっと、世界に何の不満も持たずに生きてきたんだろう。そんな笑顔だ。


「……ううん。俺はいい」
「そうか、残念だな」
 捨て犬のようにシュンとなってしまった遊隆に、俺はハッとして顔を上げる。
「なぁなぁ、遊隆。今度は雀夜に掘られて動けなくならないように、もっと鍛えてきたの?」
「なっ、……動けなくなんかならねえよっ」
「どうかな。遊隆は俺と違って、ネコ役はまだまだ未熟者だもんなぁ」
「も、桃陽っ」
「あはは」
 呆れ顔で溜息をつく雀夜。赤面して怒る遊隆。
 俺は笑ってるのに、……胸が痛い。


「そんじゃ遊隆、行くか」
「お、おう。じゃあな桃陽」
「いってらっしゃい」
 俺は松岡さん達と打ち合わせだ。事務所を出て行く雀夜の背中を寂しい思いで見送りつつ、雀夜の家に行くというさっきの約束を思い出して、思わず頬を弛めた。
 きっとその時、雀夜とセックスすることになる。部屋に上がるって、そういうことだ。約二週間ぶりの雀夜の体……想像しただけでとろけそうになる。


「桃陽、午前中の撮影どうだった?」
 夢現の中でぼんやりしていると、松岡さんが苦笑して言った。
「……あれくらいなら、どうってことないか」
「えっ、あ、はい……全然ないです」
 しまった、あんまりよく聞いてなかった。
「それで、本格的な動画撮影の話になるが……桃陽は多少の演技なんかはできるか? 例えば全力で抵抗したり、本気で嫌がったり」
 頷きかけ、首を捻る。
「うーん、できるけど……途中で気持ち良くなったら、普通に感じちゃうかもしれないです」
 松岡さんの隣に座っていた義次さんが「それも一興じゃないですか」とにこやかに言った。
「そうだな。あんまり桃陽にひどいことしても、売り専時代の客からクレーム来るかもしんねえし……」
「あのー、松岡さん」
 俺は控えめに手をあげ、自分の考えを口にした。


「レイプ系の話をしてるんだと思いますけど、それよりも俺は、複数人相手にやる気全開モードでいった方が、全体的にエロい感じになっていいと思うんですが……」
 松岡さんが腕組みをして首を傾げた。
「嫌がるどころか、乗り気になるってことか?」
 俺は頷き、座ったまま身を乗り出して不敵に笑った。
「俺ならたぶん実際にレイプされても、気持ち良ければ乗り気になっちゃうと思うから」
「……なるほどな。相手が誰だろうと、何人いようと、関係ねえってことか」
「そういうこと。全然好みの男じゃなくても、気持ち良ければ大丈夫!」
 無表情で頷く松岡さんの横で、義次さんは驚いたように目を丸くしている。