雀夜 -7-

「………」
 拒む理由なんて何もない。これほどの男に口説かれてるのだ。でも……
「……俺、ここのみんなにお世話になってるし、期待に応えないと……」
 雀夜の手が俺の顎に触れ、そのままグっと顔を上に持ち上げられた。
「その必要はねえ。お前は充分よくやった」
「……あ」
「これからは、俺の期待だけに応えろ」
 雀夜にしては優しく、静かに口付けられた。シャワーの音だけが室内を支配し、二人の吐息も、俺の鼓動も聞こえない。
 静かにキスをする俺と雀夜。この瞬間だけで、満たされてゆく──。


 決まり切った毎日。素性の分からない男とのセックスの日々。店と客からのプレッシャー。疲れて眠るだけの夜。来なければ良いと何度も願った朝……。


「雀夜」
「……なんだ」
 俺は雀夜の首にしがみつき、涙混じりに囁いた。
「俺、ここ以外の場所に行ってみたい。……俺のこと、連れてってくれんの……?」
 耳元で雀夜が笑う。
「連れてくさ。どこでもな」
「雀夜……」
「その前に、売り専としての最後の仕事をしろ」
「……ん」
 顔を引き締めて雀夜から離れた。シャワーを受け取り、栓を閉めて壁に固定する。


「雀夜、そこ座って」
 俺自身は湯が溜まった浴槽の中に身を沈め、雀夜を浴槽縁に座らせて足だけを湯に浸からせた。
「咥えてもいい?」
「いいぜ」
 根元を両手で優しく握り、唇を寄せる。伸ばした舌でそっと撫でると、微かに水の味がした。もう一度、今度は根元の方から舌で丁寧になぞる。それを何度か繰り返した後、先端に唇をかぶせた。


 雀夜の太い指が、俺の前髪をかき分ける。
「根元までは咥え込めねえか。それでも、さすがに上手いな」
「ん、う……」
 舌をくねらせてペニスの先端を刺激しながら手を上下に動かすと、雀夜が次第に反応し、時折心地良さそうに、吐息を漏らす音まで聞こえてきて嬉しくなった。
 もっと雀夜を悦ばせたい。俺を認めてもらいたい。その想いを愛撫に込めて、俺は必死に口と手を動かした。


「んっ、んっ……」
「無理すんなよ」
「無理してない……。雀夜の、熱くて……好き」
 音を立てて先端を吸うと、雀夜が俺の頭を撫でてくれた。それから、咥えられるところまで深く口の中に入れて、激しく舌を絡ませる。そうしてるうちに段々と俺も湯船の中で反応してきてしまった。
「雀夜、ぁ……気持ちいい?」
「ん。結構勃ってきたな……」
「嬉しい」
 俺は雀夜の目を見て笑い、再び雀夜のそれに唇をかぶせた。
「んぅ……」
 自分の漏らす声、たてる音……なんだかとてもいやらしいと思った。いい男のモノは咥えてるだけで興奮する。雀夜は間違いなく、俺が今まで出会った男達の中でも最高の男だ。


「んっ、ん……ぷはぁっ……」
「もういいのか?」
 からかうような声で言われ、俺は雀夜のそれを手のひらで撫でながら頷いた。
 雀夜が浴槽縁を降り、湯船の中で俺を抱きしめる。
「適当に立ちバックで挿れてやろうかと思ったけど……それだとお前の頑張りを踏みにじることになるな」
 そうして雀夜が俺を抱いたまま、湯船から上がる。濡れた体から水滴を撒き散らしながら浴室を出た雀夜は、そのまま元の部屋まで俺を運んで行った。


 さっき俺が粗相をしたベッドのシーツを剥ぎ取り、その上に静かに下ろされる。
「大丈夫、雀夜? シーツ取っても濡れてるだろ。気持ち悪くない?」
「どのみち体は濡れてるし、汗でもっと濡れることになるだろ」
「そうだけど……」
「お前を満足させるのが最優先だ」
「あ……」
 首筋に噛みつかれ、思わず眉根を寄せた。肌を強く吸われ、小さな花びらにも似たキスマークが次々と体中に残される。
「……駄目だよ、明日来るお客さんに言われる……」
「予約入ってんのか?」
「俺は週末だけは予約されないの。客の中で暗黙のルールがあって、早い者勝ちで早朝から指名されんだよ……」
「じゃあ俺が一日中予約してやる。明日も、明後日もな。お前が売り専辞めるまで、ずっとだ」
「ほ、本気で……? 超金かかるよ」
「俺はいつも本気だ」
 嬉しくて、俺は強く雀夜を抱きしめた。


 ふと、これが彼のやり方なんじゃないかという考えが頭を過ぎった。アメとムチを絶妙なタイミングで使い分け、体も心も自分の虜にさせてしまう──。つまるところ、俺というゲームの攻略を楽しんでいるのではないかという思いが湧きあがってきた。事実、雀夜はついさっきまで俺をガキ呼ばわりし、俺が雀夜に屈服して失禁する様を眺めて楽しそうにしていたのだ。それが今では俺に優しい言葉を囁き、体中を愛おしむように触れてくれている。それによって俺の心を支配している。
 俺が「男の扱いに慣れてる」人間なら、雀夜はきっと「男を飼い慣らすのに慣れてる」人間なんだろう。


「……雀夜」
「なんだ」
「正常位で、して欲し……」
 俺の体から顔を上げた雀夜が、そのまま上体を起こして俺の足を開かせた。自分で両足を持つよう促され、俺はしっかりと足を抱えて雀夜に入り口を見せる。
 雀夜はベッド脇の棚の上に常時用意されているローションとゴムに手を伸ばし、プラスチックの蓋を開けて俺の入口に透明の液体を塗りたくった。
「ゴム付ける? 雀夜なら、生でもいいよ」
 冗談ぽく俺が言うと、雀夜はニコリともせずにゴムの封を開けた。
「風俗やってるような奴がそういうことを口にするな。お前も十八歳なら分かるだろ」
「……善意で言ったのに」
「俺には悪意に聞こえたけどな」
 まぁでも、生でセックスしてリスクが多いのは雀夜の方だ。確かに軽率すぎたかもしれないと思って反省した。


 雀夜のそれが、俺の狭い入口に押し付けられる。「んっ……」ぎゅっと目を閉じて顔を背けると、雀夜はゆっくりと、少しずつ、俺の体を気遣うようにして力を込めたり緩めたりを繰り返した。
 やがて、形容しがたい鋭い痛みが俺の入口内部に走った。想像していたよりもずっと、俺と雀夜のサイズが噛み合わないのだ。元々身長は二十センチ近く差があるのだから、体の造りもそれに比例して差ができるのは当然といえば当然。だけど数多くの男を受け入れてきた俺が、挿入が難しいほど痛みを感じるなんて初めてのことだった。


「痛てぇか……?」
 苦痛に顔を歪める俺を見て、雀夜が言った。
「この痛みが癖になる。挿れて擦って出すだけじゃ、物足りなくなるはずだ」
「雀夜……ぁ……」