雀夜 -5-

「何を勘違いしてるか知らねえが……俺は別にチェンジするなんて言ってねえだろ」
「えっ、でも……」
「ま、誠意も見せてもらったし。何より別のモンをお前から貰ったからな。今回はそれで良しとするわ」
「別の物……?」
 首を傾げる俺に向かって、雀夜が笑いながら、だけど冷酷に言い放つ。
「お前の、売り専としてのプライドだ」
「っ……!」
 体が震えるのを感じた。


 家庭に恵まれなかった子ども時代。クラスメイトの殆どと関係を持って過ごしてきた学生時代。男を相手に体を売る仕事に就き、活躍し続けてきたこの十カ月。
 セックスに関しては俺の右に出る者はいないとまで思っていた、俺の男としてのプライド。何もなかった俺が唯一持ち続けていたプライド。俺はもう、それすらも雀夜に奪われてしまったのか。


 ……それならばそれでもいい。大切なプライドを交換条件に、雀夜に抱いてもらえるなら。今はそれで構わない。
「じゃ……じゃあ、プレイ続行ってことでいいの……?」
「ああ──だけど、お前には多少のペナルティが必要だな」
 その言葉にゾクリと体が粟立った。一体何を「してくれる」んだろう。
「手を後ろに回せ」
「は、はい」
 さっき俺の手を縛っていた白いネクタイで再び、今度は後ろ手に縛られる。そのまま俺をベッドに寝かせ、両足を大きく広げさせる雀夜。こんなSMチックな格好で犯されるんだろうか。考えただけで下半身が破裂しそうだ。


 早く雀夜のそれを挿れてもらいたくて、俺は唇を舌で舐めながら彼を誘った。が、雀夜は服を脱ごうともしないで、ベッドの端に座って煙草を咥えている。
「な、何してんの?」
「ちっと休憩だ」
 えっ。俺は、このまま? これ以上ないくらいに恥ずかしい格好をしたままで、雀夜が煙草を吸い終わるのを待っていろと?
「だって……もう、時間ないよ」
「あと何分だ?」
「もう二十分もない」
「ふうん……」
 素っ気ない返事をして、雀夜は口から紫煙を吐いた。
 下手なことは言わず、彼を待つしかない。また怒られたら嫌だし、それこそ自分のことしか考えていない男と思われるのも嫌だ。


「………」
 時計の針だけが無情に進んでゆく。一分、また一分と経過する度に、俺は段々と焦ってきていた。時間がなくなることへの焦りもあるが、それ以上に、ずいぶんと放置されていたはずの俺のそれが……全く萎える気配がないのだ。それどころか、さっきよりもより一層熱くなり、猛っている。
 欲しくてたまらないと、身体中が無言の悲鳴をあげている。自分で気休め程度の愛撫をしようにも、両手は縛られて少しも動かない。どうすることもできずに、ただただ体だけが雀夜を求めて熱くなってゆく──。


「さ、雀夜……。いつまでこうしてなきゃなんないの? これが、雀夜の言ったペナルティなんだろ?」
「お前次第だ。お前の態度によっては、このまま六十分終わる可能性もある」
「やっ──」
 俺は首を横に振って、それを拒絶した。
「無理だってそんなの……! 頼むからもう、抱いてってば……」
「まだまだ反省してねえみてえだな?」
「してる……反省してるから、お願いっ……」
「それがお前の精一杯か」
 なぜか溢れ出した涙が頬を伝ってゆく。俺はベッドに寝たままで雀夜を見つめ、心の底から懇願した。
「お願い、雀夜……。俺のこと、思いっ切り犯して……。何でもするから、お願い……」
 雀夜の口元が、いよいよ嬉しそうに弛んだ。


「へぇ。何でもするとまで言うか」
「う、うんっ。何でもするっ……」
 雀夜。なんて男だ。出会ってからまだ一時間程度しか経っていないのに、この俺にここまで言わせるなんて。思えばきっと雀夜とセックスしたいと思った時から……一目雀夜を見たあの時から、俺は雀夜の虜になっていたんだ。本当に、なんて奴……。
「……よし、じゃあ桃陽」
「は、はいっ……」
 雀夜が唇を意地悪く歪め、眉を吊り上げて笑いながら言った。
「そこで小便してみろ」
「えっ?」
 今、何て言った?
「何でもするんだろ? お前が犬みてえに小便漏らしてまで俺とヤりてえ、って思ってるところを見せてみろ」
「………」
 嫌だ。そんなこと、誰の前でも一度もやったことない。どんなに変態プレイが好きな客相手でも、そんなこと、一度たりとも──


「できねえのか? 別に無理ならしなくていいぜ。強要はしねえよ」
 俺は縋るような目で、じっと雀夜を見つめた。
「雀夜は……そんなの見て、楽しいの?」
 嬉しそうな表情を少しも崩さずに、雀夜が紫煙を吐いて言う。
「ああ、楽しいぜ。お前が俺に屈服する瞬間を見れるんだからな。それも最悪な形で、な」
 別にそういう変態的なプレイが好きな訳ではないということか。ただ単に、俺が雀夜の言いなりになって「そんなこと」をしてしまう姿を見たいだけ。俺に嫌がらせしたいだけなんだ。


「で……できないよ。できない……」
「よく考えろ桃陽。今俺の言うことを聞けば、お前が望んでること何でもしてやるんだぜ。何回でもイかしてやるし、気の済むまでケツも気持ち良くしてやる。体中舐めてやるし、望むならローションで優しく全身マッサージなんてのもしてやるよ」
「………」
 気持ちが傾きかけた。
「俺とセックスしてえんだろ」
「……お、俺……」
 強く目を閉じて、頭と心の中をカラにした。
「っ……!」
 そして一気に、下腹部に力を入れる。
「ふわ、ぁ……」
 雀夜の目の前で今、俺は……。


「桃陽、目を開けろ」
「や、やだっ!」
 これ以上俺を辱しめないでほしい。僅かに残っていたプライドも捨てて、情けない姿をさらしているのだ。これ以上は、もう……
「目を開けて受け入れろ。自分がどれだけ淫乱で恥知らずなのか……俺とヤるために十八にもなって人前で小便してる姿を、自分の目で見て受け入れろ」
「う、ぅ……」
 俺はしゃくりあげながら目を開き、大股を開いてベッドの上で放尿している自分の痴態を見つめた。
「も、もう許して……」
「許すも何もねえよ。お前が自分で決めてやったことだろ」
「うー……」
 ようやく収まり、俺は大きく深呼吸をしてベッドに横面を押し付けた。