それから

 ホテルにチェックインした後、ネオンがニンマリと笑って部屋を出て行った。お邪魔だろうから。そんな台詞を残して。
「………」
 正直、黙ったままの偉音と二人きりというのは気まずかったが──このままでいる訳にもいかず、俺は決心して彼に話しかけた。
「……あのさ、何か食う? ルームサービス頼もうか」
 我ながらご機嫌取りみたいで情けなかったが、他に話題が思い付かない。飯島の話には触れられないし、ネオンについてはもっとだ。

 偉音が無言で首を横に振り、煙草を咥える。
「………」
 言いたいこと、本当はいっぱいあるのにな。
 仕方なく俺はベッドの端に腰掛け、窓の外を眺めている偉音の背中を見つめた。
「………」
「……宇咲」
「は、はい」
 こちらを振り返らずに、偉音が言う。
「巻き込んで悪かったな。お前ももう自由だ、好きにしていい」
 気付けば窓の外は雨が降っていた。鉛色に染まる街を見下ろす偉音の背中は、遠い。
 その距離を縮めるため、俺は立ち上がって偉音の隣へ行った。何てことない。こうやって隣に行くことさえできれば、「距離」なんて幾らでも埋められる。
「自由にしていいなら、偉音といたいよ」
「………」
「だって俺は、偉音の物なんだし」
 雨の街を眺めるふりをして、ガラスに写った偉音の目を見る。
 偉音もまた俺を見ていた。

「俺にはまだ全然、偉音の仕事のことは分からないけどさ。でも偉音が命令してくれるなら、マネージャーでもパシリでもいい。偉音の傍にいたい」
「……宇咲」
 ガラスを伝う雨粒のせいで、そこに写る俺達は泣いているみたいだ。
「お前、自分の仕事どうすんだよ」
「………」
「ノープランか」
「う」
 偉音が呆れて溜息をつき、俺の方へ向き直った。短くなった煙草に気付いた俺は、慌ててテーブル上の灰皿を取る。
「で、でもさ。もしあいつが言ってたように偉音が自分のクラブとか持ちたくなったら、俺に任せてよ。全身全霊で最高の物件探すから」
「それは楽しみだな」
 灰皿に煙草の先を押し付けながら、偉音がようやく笑ってくれた。
「それに、俺もたまになら……前みたくステージ協力してやっても、いいし。ネオンさんの代わりにはなれないけど、……俺なりに頑張って……」
「阿呆、何言ってんだ」
 偉音が俺の顎を強く押さえ、上を向かせる。
「全ステージ、お前が主演だろ」
 そして、深く口付けられた。